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実は、前回のエドモンドとの話し合いの直後、レイフォードには実父のことを話した。

というのも、レイフォードが気づいたから。




「母様、今日のお客様ってさっき僕たちを見ていた人?」

「ええ。」

「挨拶するように呼ばれなかったけど、僕に似た感じの人だったね?本当の父親かその親戚?」 


自分がここから引き離されてしまうと感じたのだろうか。レイフォードはどこか不安そうだった。

リゼルはレイフォードの隣に座り、手を握って話をすることにした。


「あの方はレイの本当の父親でお母様の前の夫なの。レーゲン公爵家の方よ。」

「やっぱり。どうしてここに来たの?」

「あの方はお母様と別れた後、別の方と再婚されたのだけど子供がいないの。それで親戚から養子をとろうと思ったそうなのだけど、お母様があなたを産んでいたことを最近知ったそうでね、あなたをレーゲン公爵家に引き取れないか相談に来られたの。」

「……僕、その人のところに行くの?」

「いいえ、まだ決まっていないわ。お母様が認めないとあなたは連れて行けないから大丈夫よ。」 


レイフォードは少し安心したように頷いた。


「公爵ってわかる?うちは伯爵家よね。その上が侯爵でそのまた上が公爵。つまり貴族で一番上の爵位。
レイフォードはそこの血筋だから、レーゲン公爵家はあなたを公爵家の籍に入れたいの。
だけどね、お母様は今あなたが公爵家に行くことは賛成できないわ。」

「どうして?」

「お母様がレイと離れたくないから。お母様だけでなくお父様も、ルティアもロイドもそう思うはずよ。お祖父様やお祖母様も、レイの近くにいる使用人たちも、みんなそう思うわ。」

「僕も離れたくない。」

「でしょう?あなたはまだ7歳。公爵家には本当の父親とその奥様がいるわ。お祖父様である公爵様も。
だけど、みんな忙しくてレイとお話してくれる時間は少ないと思うの。それでは寂しいでしょ?
毎日お勉強ばかりで遊び相手ができるかわからないし。」

「寂しいの嫌だな。」

「だからね、お勉強は今でもしているでしょう?公爵家のために必要な勉強があるのであればここですればいいと思うの。レイに会いたければ、向こうが会いに来ればいいと思うの。
せめて、レイが15歳になるまでは一緒がいいわ。」

「どうして15歳なの?」

「この国では16歳で成人となるわ。でもその前に15歳で学園に入学するでしょ?
その入学する時に、レイフォード・レーゲンになっていた方が公爵家の者だと認識されるわ。途中で姓が変わると周りも戸惑うし、卒業後に姓を変えるのも在学中に築いた関係に影響が出るかもしれない。
まだ今のあなたにはちょっとわかりにくいかしら?」

 
7歳が理解できる話ではないかもしれない。


「ううん。何となくわかった。騙したと思われないようにするってことでしょ?」

「そうね。それに、15歳になったらもう自分がどうしたいか自分で決められるわ。
18歳で卒業するまではここで暮らすと決めてもいいし、ここと向こうと行き来してもいいし。
つまり、15歳まではここで一緒に暮らしてほしいなってお母様は思っているの。」 

「僕もそれがいいな。時々なら遊びに行ってもいいけど。」

 

という話がリゼルとレイフォードの間で交わされ、夫エヴァンにも伝え、エドモンドに妥協案として伝えられたのだ。


 
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