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リゼルがエドモンドに帰れと言うと、エドモンドは慌てて『違うんだ!』と言った。


「実は私の生殖能力が無くなったのがいつかがわからない。知っていると思うが、シモーヌはいろんな薬物を持っていた。彼女が私との子供を望んでいたことは確かで、だから彼女が捕まるまでに私に子種を殺す薬を飲ませたはずはないと思っている。
生殖能力が無いのは生まれつきの可能性もあるが、君の子供は私によく似ていると聞いた。それに、君は浮気などしていないだろう?だったら、私の子だ。会わせてくれないか?」

 
もちろんリゼルは浮気などしていないからレイフォードはエドモンドの子供なのだけど……
生殖能力が無くなった?その原因は?
 

「つまり、シモーヌ様が捕まった後にあなたに子種を殺す薬を飲ませた人物がいるかもしれないってこと?それが誰かはわかったの?」

 
エドモンドはハッとした顔をした。ひょっとしてまだ調べていない?
まぁ、調べていたら、いつ生殖能力を失ったかわかっているはずだから調べていないのだろう。


「公爵家の使用人の中にシモーヌに指示されていた者がいたのか?母に加担していた使用人は全員追い出したと思っていたが……まだ残っている?まさか、今もいる?」
 

犯人捜しは公爵家に戻ってからじっくりとしてほしい。


「気になっているなら、先にそちらを調べたら?話はこれで……」

「待て待て。君は何一つまともに答えていないよな?それに、私は子供だけでなく君も公爵家に迎えたいと思っている。」

「なっ……!」


黙って2人の話を聞いていたエヴァンが驚き声をあげた。


「私はエヴァンの妻で、あなたにも奥様がいるわ。何を血迷ったことを言っているの?」

「なら、子供だけ公爵家に寄こすのか?」

「私には子供が3人いるわ。3人共、エヴァンとの子供だと思っている。3人共、ここで育てるの。」

「だが、私の子供だろう?」

「私は認めないわ。離婚事由は私の浮気。あなたが認めても私が認めない限り、あの子はレーゲン公爵家の籍には入れないわ。」
 

エドモンドはリゼルの言葉にポカンとしていた。

単なる離婚と違い、妻の浮気による離婚は離婚後に妊娠していた場合の手続きが面倒になる。
元夫の子供か、浮気相手の子供か。
たとえ元夫にそっくりな子供が生まれたとしても、元夫側が認めないため子供は元夫の籍に入れない。

元夫婦のどちらもが認めないとならないのだ。

今回は逆にそれが利用できる。
リゼルがエドモンドの子供と認めない限り、レーゲン公爵家の籍に入れないのだから。


しかし、エドモンドは自分が認めたらリゼルは喜んで公爵家に子供を渡すと思っていたのだろうか。
 

「公爵家の跡継ぎになれるんだぞ?なぜ、喜ばない?君は息子の将来を潰す気か?」

「公爵家の跡継ぎにしたいのなら、あなたに復縁を望まれた時に受けていたわ。」
 

エドモンドはハッとした後、顔を顰めた。


「……今日は一先ず帰るが、私は諦めるつもりはない。君も、エヴァンも、何が最善かをもう一度考えてみてくれないか?」
 

リゼルとエヴァンは頷いた。疲れたから。とりあえず。



応接室を出た後、エドモンドが言った。


「一目、見れないか?」


……会わせないと見張られるかもしれない。

子供たちはサンルームでおやつを食べているというのでエドモンドを案内した。

レイフォードは3歳の弟ロイドの口回りと手を拭いてやっていた。
そしてロイドに抱きつかれながら、ルティアと3人で遊び始めた。微笑ましい光景だった。


「……本当に、私似だな。」
 

……それは否定できない。

 

 
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