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32.
しおりを挟むリゼル宛にエドモンドから手紙が届いた。
通常ではあり得ない。
結婚している男が他の男と結婚している女宛に直接手紙を送ることはマナー違反とされている。
せめて、夫と連名表記をされていれば問題ないのだが、エドモンドはそうしなかったのだ。
「……コレ、なに?」
まだ封を開けていないにも関わらず、リゼルは宛名だけで汚物を見るような目で手紙を見た。
「まぁ、ちょっと想像つく、かな。」
エヴァンは眉をひそめながらも心当たりがあるといった返事をした。
「エドモンド様に会ったの?何か話をしたとか?」
「いや、そうじゃない。」
「じゃあ、どうして?」
エヴァンはため息をついてリゼルに説明した。
「エドモンドにはまだ子供がいない。」
「……つまり、レイのことを話し合う手紙?」
「じゃないかな。」
手紙を読めばわかることなのに、なかなか開ける気がしなくて睨みつける。
「俺の名前が宛名にないのは、『お前は関係ない』と言ってるんじゃないか?」
「ひどいわ。なによそれ。それに、何年もレイのことを知らないフリして今更なに?」
「……レイのこと、今まで知らなかった可能性はある。お前はしばらく王都にいなかったしな。
俺の親戚もお前の親戚も友人たちも、みんな、人がいいだろう?レイが誰の子供とわかっても口にしない。
エドモンドに繋がるような人にレイのことを話さなきゃ知らないままになるかもしれない。」
「……確かに。子供同士の交流会もまだ数年先だし。じゃあ、知ったから手紙を?」
「そうじゃないか?養子でも考えていたところにレイの存在を知ったといったところか。」
「もう27歳だものね。でも不思議。奥様に子供ができなかったら愛人に産ませると思ったのに。」
「愛人がいるのか?」
そういえば、エヴァンにはエドモンドから復縁の話があったことを言っていなかったっけ?
「エドモンド様は一度復縁の話を持ってきたの。離婚した3か月後くらいに。
私が避妊薬のせいで子供ができなかったら愛人に産ませるって言っていたわ。」
「何だ?その中途半端な復縁の申し込みは。リゼルが好きだからってわけじゃないのか?」
「そうなの。違うの。あの時にもう、あの人に対する恋心は粉々に砕け散って修復不可能になったわ。」
ひび割れても、少しずつ修復されて、小さくとも希望を抱いていた恋心はもう、ない。
「シモーヌ様がいたから傷跡の責任を取るのは嫌がったのに、シモーヌ様がいないから不妊の責任は取るって言われたようで……しかも、次は愛人でしょ。『あぁ、この人は永遠に私に振り向かない』。そう思ったわ。」
「そうかぁ?嫉妬していたように見えたし、無自覚だったんじゃないか?」
「なら、彼は自分の情緒も受け入れないほどシモーヌ様のところに心を置いてきたのね。」
まるで次の恋は受け入れないのだと感情が宿る前に投げ捨てるのだろう。
「あ、でも今は違うってことね。奥様に子供ができなくても愛人に産ませていないってことは奥様のことを愛しているってことじゃないかしら。だから養子を考えているんでしょ?」
「そうなるかぁ?でもなぁ……」
エヴァンは何か考え込んでいたようだが、話を最初に戻すように言った。
「まぁ、それはいい。で?レイは渡さないよな?」
「もちろん。あんな公爵家で育てられることになったらレイは寂しくて家出して戻ってくるわ。」
エドモンドも奥様も、そしてレーゲン公爵もレイフォードの気持ちに興味はないだろうから。
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