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しおりを挟む数か月後、リゼルは男の子を産んだ。
エドモンドによく似た男の子で、自分が選択したことなのに、この場にこの子の父親がいないということに何とも言えない複雑な思いがした。
レイフォードと名づけた。
兄夫婦には娘アリスしかおらず、アリスがよそに嫁に行きたいと言えばレイフォードに伯爵家を継がせてもいいし、アリスとレイフォードが結婚してもいいと父と兄が話しており、母と義姉とリゼルは気の早い話だと苦笑した。
リゼルは王都にいればいずれレイフォードのことを知られる可能性は高くなるので、レイフォードを連れて伯爵領で過ごすことにした。
そうしてレイフォードが3歳になった頃、リゼルに縁談が来た。
「縁談?今更?私、もうすぐ24歳になるのに?」
「ああ。相手は、エヴァン君だ。」
「エヴァンって、あのエヴァン?婚約してた……」
「そう。そのエヴァン君だ。彼も結婚して子供が産まれたんだが、妻になった女が男と逃げた。」
「はぁ?駆け落ち?」
「そうだ。どうやら結婚前に付き合っていた男がいたらしい。親に別れさせられてエヴァン君と結婚したんだが、子供を産んだから自由にさせてくれと書き置きと離婚届を置いて逃げたらしい。」
それはまた……エヴァンは気の毒なことね。
「で、何で私なの?」
「まだ彼も若いだろう?再婚話にうんざりしているそうだ。今後パートナーが必要な場面も多い。
子供の母親になってくれる女性を望んでも誰も信じられない。だが、何年も婚約者だったリゼルなら信じられると思ったそうだ。」
「奥様に逃げられてショックが大きいのね。レイを連れて行っても問題ないなら受けるけど。」
連れ子がいてもいいのであればね。レイフォードを連れて行けば誰の子かすぐにバレるけど。
「あぁ、彼は知っている。……悪い。エヴァン君の父、バーナー伯爵に酔って話してしまった。」
父とバーナー伯爵は昔からの友人で、昔、リゼルがエヴァンと婚約することになったのもその縁によるものだった。
「レイフォードが可愛くて、つい、な。」
孫可愛さについつい口が軽くなってしまったようだ。
平民にならない限り、まぁ、いつかは知られることになる。
レイフォードが貴族として生きていくためには2つ方法がある。
1つは、兄の養子になり伯爵家の跡継ぎになるか、どこかの貴族の婿に入る。
もう1つは、リゼルが再婚して再婚相手の戸籍に入る。再婚相手の家の跡継ぎにはなれないが、息子にはなれるのでどこかの貴族に婿に入ることもできる。
もちろん、バーナー伯爵家がレイフォードを受け入れなければ実家のアルマン伯爵家の籍にレイフォードを置いておくこともできる。ただ、その場合は兄が伯爵になる時には兄の養子にならないと貴族として微妙な立場になるのだ。
「じゃあ、エヴァンもバーナー伯爵様も私と一緒にレイフォードも受け入れてくれるのですか?」
「そうらしい。お前の好きにすればいいが、元の形に戻るのもいいんじゃないか?」
元の形。元々、学園卒業後はエヴァンと結婚するはずだった。
お互いに子供はいるけれど、みんなで家族になれる?
そうね。エヴァンとなら、恋に振り回されることなく穏やかに、楽しく暮らせそうね。
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