上 下
22 / 72

22.

しおりを挟む
 
 
レーゲン公爵家から連絡が来たリゼルの父、アルマン伯爵は眉間にしわを寄せて言った。


「今になって何だ?まさか、慰謝料か?」

「今更、それはないと思いますけど?」


金ならうんざりするほどある公爵家が慰謝料を求めるとは思えない。


「なら、まさか復縁か?」

「冗談がきついわ、お父様。公爵夫人がいなくても、もう二度とごめんだわ。」

「だが、お前、いいのか?」

「いいのよ。それとも、ここにいたら迷惑?」
 
「そんなことはないぞ。みんな、毎日楽しそうじゃないか。」


両親も、兄夫婦も、姪も、出戻ってきたリゼルに優しい。それはリゼルも嬉しく思っていた。

だが、そのうち領地で過ごそう。そう思っている。




エドモンドがやってきた。

彼がこの家に来るのはリゼルの怪我を見舞った時以来になる。

あの時は『君なんかと……』と言われた言葉が心にグサッと刺さった気がしたのを覚えている。
 
彼は少し痩せたように見えた。

父と挨拶を済ませた後、エドモンドはリゼルと話がしたいと言い、部屋に2人になった途端、頭を下げて謝罪した。
なんか、不気味。


「事実確認を怠り離婚を突きつけて申し訳なかった。あれは母が仕組んだことだとわかった。君を信じることができず、すまないことをした。」

「そうでしたか。あれからいろいろと大変だったようですね。」


アストリー侯爵家のことは広く伝わっている。
娘のシモーヌがレーゲン公爵夫人ルキアや辺境伯爵次男ブレイクを薬物で操っていたことも知られている。
公爵夫人のことを隠すこともできただろうに、レーゲン公爵は公表することを選んだ。
同様に辺境伯爵も次男ブレイクを切り捨てた。
辺境伯と跡継ぎである長男は、ブレイクがシモーヌの言いなりだったことを知らなかったらしい。

薬物の影響もあったが自分たちの欲のためだったため、本人たちは重い処罰が下ることになるが、家族の連帯責任は問われることはなかった。悪は全てアストリー侯爵家となった。


「母や使用人が君にきつくあたっているとわかっていたのに、的確な対処を怠った。いや、それだけじゃない。私は頑なに君を知ることを拒んでいた。責任を取って結婚したというのに。」
 
「だからではないですか?あなたは納得しないまま、私と結婚したから。でも、もういいです。終わったことだから。」


エドモンドはなぜかショックを受けた顔をしていた。突き放した言い方に聞こえただろうか。


「ずっと君に言わなければならない言葉を言えていなかった。私を庇ってくれてありがとう。傷を負わせてしまって申し訳なかった。」


感謝されたくて傷を負ったわけではないけれど、お礼を言われるとやはり嬉しい。
エドモンドがお礼を言っていないことを覚えていたことにも驚くが。


「確かに余計なことをしてしまったな、とは思いました。それに、もう少し早く気づいていればメアリー様を守ることもできたのではないか。彼女が思い詰める前にできたことがあるんじゃないか。でも、そう思うことも今更ですから。」

「リゼル、君は何か知ってるのか?どうしてメアリー嬢があんな凶行に走ったのか。」

「エドモンド様に心当たりは?」

「父からは、シモーヌと婚約解消すればメアリー嬢が次の婚約者だったと聞いた。だから、シモーヌがメアリー嬢に何かしたのではないか、と。」


さすが、レーゲン公爵は正しく筋を読んだらしい。

エドモンドにはメアリーのことを被害者でもあると覚えていてほしい。

そう思い、リゼルはあの日シモーヌがメアリーに言った言葉をそのままエドモンドに伝えることにした。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

真実の愛は素晴らしい、そう仰ったのはあなたですよ元旦那様?

わらびもち
恋愛
王女様と結婚したいからと私に離婚を迫る旦那様。 分かりました、お望み通り離婚してさしあげます。 真実の愛を選んだ貴方の未来は明るくありませんけど、精々頑張ってくださいませ。

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

元婚約者は戻らない

基本二度寝
恋愛
侯爵家の子息カルバンは実行した。 人前で伯爵令嬢ナユリーナに、婚約破棄を告げてやった。 カルバンから破棄した婚約は、ナユリーナに瑕疵がつく。 そうなれば、彼女はもうまともな縁談は望めない。 見目は良いが気の強いナユリーナ。 彼女を愛人として拾ってやれば、カルバンに感謝して大人しい女になるはずだと考えた。 二話完結+余談

(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)

青空一夏
恋愛
 従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。  だったら、婚約破棄はやめましょう。  ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!  悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

処理中です...