好きな人に振り向いてもらえないのはつらいこと。

しゃーりん

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レーゲン公爵家から連絡が来たリゼルの父、アルマン伯爵は眉間にしわを寄せて言った。


「今になって何だ?まさか、慰謝料か?」

「今更、それはないと思いますけど?」


金ならうんざりするほどある公爵家が慰謝料を求めるとは思えない。


「なら、まさか復縁か?」

「冗談がきついわ、お父様。公爵夫人がいなくても、もう二度とごめんだわ。」

「だが、お前、いいのか?」

「いいのよ。それとも、ここにいたら迷惑?」
 
「そんなことはないぞ。みんな、毎日楽しそうじゃないか。」


両親も、兄夫婦も、姪も、出戻ってきたリゼルに優しい。それはリゼルも嬉しく思っていた。

だが、そのうち領地で過ごそう。そう思っている。




エドモンドがやってきた。

彼がこの家に来るのはリゼルの怪我を見舞った時以来になる。

あの時は『君なんかと……』と言われた言葉が心にグサッと刺さった気がしたのを覚えている。
 
彼は少し痩せたように見えた。

父と挨拶を済ませた後、エドモンドはリゼルと話がしたいと言い、部屋に2人になった途端、頭を下げて謝罪した。
なんか、不気味。


「事実確認を怠り離婚を突きつけて申し訳なかった。あれは母が仕組んだことだとわかった。君を信じることができず、すまないことをした。」

「そうでしたか。あれからいろいろと大変だったようですね。」


アストリー侯爵家のことは広く伝わっている。
娘のシモーヌがレーゲン公爵夫人ルキアや辺境伯爵次男ブレイクを薬物で操っていたことも知られている。
公爵夫人のことを隠すこともできただろうに、レーゲン公爵は公表することを選んだ。
同様に辺境伯爵も次男ブレイクを切り捨てた。
辺境伯と跡継ぎである長男は、ブレイクがシモーヌの言いなりだったことを知らなかったらしい。

薬物の影響もあったが自分たちの欲のためだったため、本人たちは重い処罰が下ることになるが、家族の連帯責任は問われることはなかった。悪は全てアストリー侯爵家となった。


「母や使用人が君にきつくあたっているとわかっていたのに、的確な対処を怠った。いや、それだけじゃない。私は頑なに君を知ることを拒んでいた。責任を取って結婚したというのに。」
 
「だからではないですか?あなたは納得しないまま、私と結婚したから。でも、もういいです。終わったことだから。」


エドモンドはなぜかショックを受けた顔をしていた。突き放した言い方に聞こえただろうか。


「ずっと君に言わなければならない言葉を言えていなかった。私を庇ってくれてありがとう。傷を負わせてしまって申し訳なかった。」


感謝されたくて傷を負ったわけではないけれど、お礼を言われるとやはり嬉しい。
エドモンドがお礼を言っていないことを覚えていたことにも驚くが。


「確かに余計なことをしてしまったな、とは思いました。それに、もう少し早く気づいていればメアリー様を守ることもできたのではないか。彼女が思い詰める前にできたことがあるんじゃないか。でも、そう思うことも今更ですから。」

「リゼル、君は何か知ってるのか?どうしてメアリー嬢があんな凶行に走ったのか。」

「エドモンド様に心当たりは?」

「父からは、シモーヌと婚約解消すればメアリー嬢が次の婚約者だったと聞いた。だから、シモーヌがメアリー嬢に何かしたのではないか、と。」


さすが、レーゲン公爵は正しく筋を読んだらしい。

エドモンドにはメアリーのことを被害者でもあると覚えていてほしい。

そう思い、リゼルはあの日シモーヌがメアリーに言った言葉をそのままエドモンドに伝えることにした。


 
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