好きな人に振り向いてもらえないのはつらいこと。

しゃーりん

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エドモンドは父に聞かれるまで、自分がずっとシモーヌを愛していると思っていた。

だが、冷静に気持ちを整理してみると恋焦がれる思いはもう、ない。

あるのは、少し気の強い彼女に憧れた懐かしい思い出だった。


「どうだ?今でもシモーヌが好きか?」

「情が全くないとは言えませんが、すでに過去の思いだと言えると思います。」

「そうか。まぁ、それはお前が本来シモーヌに抱いていた感情なのだろうな。」


どういう意味だろうか。
シモーヌがメアリーに嘘を吹き込んだことが事実かはわからないが、そのことを今まで知らなかった自分としてはシモーヌを嫌う要素などどこにもなかった。ただ、事業の負債により引き離されたというだけだ。


「エドモンド、アストリー侯爵家が負債を負った理由を知っているか?」

「船の沈没で積荷が全て沈んでしまったからだと記憶していますが。」
 

いつもは陸路で運んでいた積荷を、その時は先5年分を纏めて運ぶために船にしたという。


「その積荷は、きな臭い仕事の中身だ。」


表向きの積荷とは全く違うものばかりという。


「奴隷のように扱える人間や、希少動物のはく製、そして一番問題なのが薬物だ。それらを運んでいた。」
 
「薬物?まさか、違法の?」

「そうだ。私ももっと早くルキアと離婚して追い出すべきだった。面倒だからと後回しにしたツケがコレだ。」


そう言った父は自分の胸を指差した。


「まさか、父上の心臓発作も?」


「ああ。怪しい薬を分析してもらった。他国で暗殺にも使われる心臓発作に見せかけることのできる成分だとわかった。最初に飲まされて以来、口にしていないがな。」


衰弱していると思わせているらしい。だが……


「誰、が?」

「ルキアだ。」


父から返ってきたのは母の名前。父が倒れたのは母のせいだというのか。
だから、早く離婚するべきだったと言ったのか。


「ルキアは今でもシモーヌと繋がっている。」


アストリー侯爵家のきな臭い仕事。
その一つである薬物のことをシモーヌも知っていて、しかも母が父を殺すための手助けをしている?


「ルキアや使用人たちがシモーヌに好意的な理由。それはあの茶葉だ。」

「茶葉?シモーヌがいつも持って来ていた?」

「ああ。あれにはちょっとした麻薬のような作用があって精神的な影響と依存性がある。」

 
特に、そのお茶を飲みながら指示されたことは意識下に残りやすいという。
普段からそのお茶をよく飲んでいた母は、それを飲んでいたら気分がよかったのだろう。


「シモーヌは結婚したお前にもう関わることはないと思っていたんだが、甘かった。まさか、ルキアにずっと茶葉を送り続けているとは思っていなかった。」


つまり、母や使用人がいつまでもシモーヌの味方でリゼルを受け入れなかったのはその茶葉の影響が大きいということか。使用人の質に問題があると思っていたが、それだけではなかった。
シモーヌは使用人たちにも母とは違う茶葉を渡し続けていた。

しかも、エドモンド自身もリゼルを大切にしなかったのだ。更に拍車がかかったのだろう。 


父が言うには、エドモンドはシモーヌとの婚約解消まではシモーヌ夢中だったが、お茶を飲まなくなったことで徐々に執着が薄れ始めていた。
しかし、シモーヌが屋敷に来てたまにお茶を飲むことで効果はまだ持続していたが、母とは違いその後、飲まなくなったことで彼女への気持ちが過去のものだと落ち着いたのだろう、と。

確かに婚約解消直後は、異常なほどの焦燥を感じた。それが薬物のせいだったとは……






 
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