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しおりを挟むシモーヌがエドモンドに夜這いしようとしていたのと同じ頃、公爵夫人の元に急な知らせが届いた。
「奥様、旦那様が大きな発作をおこされました。医師が最期の別れになるだろう、と……」
「わかったわ。すぐに行くから。」
レーゲン公爵夫人ルキアはこの時を待ち構えていた。
頭の固い夫が死に、息子のエドモンドが公爵になる。
そしてシモーヌを嫁にしてアストリー侯爵家と手を取り合う。甥のブレイクにも声をかけているので実家の兄を巻き込まなくても融通をきかせることができる。
これからもシモーヌは幸せを届けてくれるのだ。
そんなことを考えながら部屋を出たためルキアは笑っていたのだが誰からも指摘されることはなかった。
公爵である夫が療養している部屋に着くと、涙を堪えるような表情をしたが涙は全く流れない。
「あぁ、旦那様。あ、あら。……ひょっとして、もう?」
夫である公爵があまりに静かに目を閉じていたため、ルキアはもう死んだのかと思った。
「大きな発作だったため、奥様が来られる前に強い痛み止めを処方したために眠っておられます。
お言葉を交わす時間を作れず申し訳ございません。もう脈拍も弱く、おそらくはこのまま眠るようにして……」
「あぁ、なんてこと。息を引き取るまでそばにいたいわ。少し2人にしてくれないかしら。」
「……かしこまりました。」
医師や薬師、侍従も下がり、2人きりになった途端、ルキアは笑いが込み上げてきた。
「くくくっ……はははっ……ようやくね。でも、発作が起きたらコロッと逝くかと思ったわ。
今日の薬は多めにしたからもっと早く心臓が止まると思ったのに。元々が健康な心臓だから薬の効きが悪いのかしらね?何度薬を盛っても死なないんだから。だけどあと数時間の命。ふふふっ……待ち遠しいわ。」
「……期待させて悪いが、私はまだ死ぬ気はないぞ。」
そう言って上体を起こした公爵に驚いて、ルキアは椅子から転げ落ちて立ち上がれないようだった。
「な……な……なんで……?」
瀕死のはずの夫が起き上がっただけでなく、寝室には他にも人がいたことにルキアは気づいた。
「おそらく、今日とどめをさすだろうと思って私の最期に何を言うだろうとお前を待っていたんだ。」
「く、薬は飲まなかったの?」
「最初の発作以来、信用できる物以外は口にしていない。まぁ、薬をすり替えただけで食事には何も入っていなかったのかもしれんが念のためにな。」
「だけど、度々起こる発作で体が衰弱してるって聞いていたのに……」
「聞いていただけでお前は見舞いにも来なかったがな。嘘の情報を流した。それだけだ。」
公爵は心臓が悪くなったのではない。心臓発作に見せかけることができる薬を飲まされたのだ。
発作を起こしても一度で死ななかった公爵に、薬の量は少しずつ増えていた。
多くしすぎると心臓発作に見えなくなる恐れもあることから分量は決められていたのに。
疑われれば、死因を誤魔化してもらうために医師を買収すればいい。
そう判断し、ルキアは今夜、確実に夫を殺すことにしたのだ。
シモーヌをエドモンドの嫁にするために、リゼルを追い出し夫に死んでもらう。
もう少し先になる予定だったが、シモーヌが妊娠したことで計画が早まったのだ。
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