好きな人に振り向いてもらえないのはつらいこと。

しゃーりん

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エドモンドはシモーヌがやってきたと聞き、応接室に向かった。

するとシモーヌは母と談笑していた。


「シモーヌ、どうしてここに?」

「エド、久しぶりね。おばさまが呼んでくださったの。嬉しいわ。」


シモーヌはにこやかにそう答えた。
エドモンドは母に向かって言った。


「母上、父上が言ったことを忘れたのですか?シモーヌは二度とこの屋敷に入れてはいけないと言われたでしょう?」

「あら。旦那様はベッドの上ですもの。みんなが黙っていれば問題ないわ。」

「問題あります。それに母上も私もシモーヌと個人的に会うことを禁じられました。母上は父上と離縁なさるおつもりで?」
 
「まあっ!大げさねぇ。個人的に会うためじゃないわ。シモーヌは商談で来てくれたの。」

「商談?何のですか?」

「ほら、ずっとシモーヌが贈ってくれていた私の大好きな茶葉よ。以前はあなたの婚約者として好意で持って来てくれていたけれど、今は買わないといけないでしょう?その値段交渉をしていたの。
あ、でもエドモンドは独身に戻ったものね。またシモーヌと婚約したらどうかしら?」

「……あり得ませんよ。父が許しません。」

「今はあなたが代理よ?ベッドから動けないあの人に従う必要はないわ。」 
 
「まだ父が公爵です。」

「それもあと少しよ。日に日に弱っているって聞いているわ。」


母は父が倒れた日以降、容体を見に行くことすらない。
医師や侍女からの報告を聞くだけだ。


「公爵様のお見舞いをしたいところですが、私が顔を出すと発作をおこしてしまうかもしれませんね。」

「まぁ、優しいのね。でもその方が何度も苦しい思いをするよりも楽に旅立てるかしら?」


何なんだろう、この2人の会話は。冗談で笑い合っているように見せているが、父に早く死ねと言っているようにしか聞こえなかった。

そう言えば、婚約していた時もこの2人はよく意見が合っていた。
大抵はどこかの夫人や令嬢の話だったが、哀れに思ったり残念がったりしていたアレは誰かを嘲り貶めるような会話だったとも言える。

母やシモーヌがそんなことを言うはずがないと思って、いいように受け止めていたがやはり違ったようだ。

以前と心の距離が違うからか、不謹慎だと怒鳴りつけたくなる。

 

「母上はシモーヌの居場所を知っていたのですか?」

「もちろんよ。私が紹介してあげたの。兄の次男の婚約者候補としてね。」


母の兄は辺境伯だ。その次男とはブレイクのことか。
辺境にいたのであれば王都でシモーヌの姿を見かけないのは当然だな。

それにしても婚約者候補か。婚約を結んでいないのはどういう意味だろうな。
 
 
「ブレイクとの結婚を辺境伯とアストリー侯爵が認めるとは思えませんが?」

「そうなの。だから、戻ってきたのよ。」
 

エドモンドは皮肉を込めて言ったのだが、シモーヌは気づかなかったようだ。

辺境伯が認めなかった結婚を、レーゲン公爵である父が許すはずがないと言ったのだが、彼女の中ではエドモンドが受け入れれば結婚できると思っているのだろう。

彼女たちの中では、もう父は死人のようなもの。


「今日はぜひ、泊まっていって。部屋は準備できているわ。」

「ありがとうございます。お義母様。」


シモーヌはもうすでにレーゲン公爵家の嫁になったるもりのようだ。

決行は……今夜だろう。
 


 
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