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しおりを挟むリゼルと離婚した数日後、エドモンドは父に呼ばれた。
「お前がここまで愚かだったとは思わなかった。」
「……どういう意味ですか?」
「リゼルとの離婚のことだ。お前が独身に戻る。この意味を考えなかったのか?リゼルとの婚約と結婚を急いだ意味がないではないか!」
独身に戻ることの何が問題なのだろう。リゼルとの間に子供はできなかった。
確かに1年半も経たないうちに離婚するには判断が早いかもしれないが、離婚の原因はリゼルの浮気なのだからエドモンドが怒られることは納得がいかない。母が嵌めたにしろ、離婚事由は変わらない。
「誰かと再婚する必要はあるでしょうね。」
「その誰か、をルキアが誰を想定しているのかわかっていないのか?と聞いているのだ!」
「母上が?……まさか、シモーヌを、と言うのですか?」
母はシモーヌを気に入っていた。
気難しい母と仲良くなったシモーヌに、エドモンドも気を許し、やがて愛した。
気の強い一面すら、実は気弱なエドモンドには羨望する思いもあり、真似て振る舞うと堂々として品行方正な公爵令息だと特に令嬢から憧れを抱かれることになった。
シモーヌが誰かと結婚したとは耳にしていない。
だが、彼女は王都にはいないだろうということは聞いたことがある。
実際、夜会で姿を見かけたことはない。
「ルキアや使用人たちが未だシモーヌにこだわり、リゼルを蔑ろにしていたのはお前のせいだ。
お前が妻になったリゼルを大切に守り、口出し出来ぬような態度を取らなかったからだろう。」
確かに、使用人の態度はひどい。しかも、それを母が許しているのだからリゼルには太刀打ちできない。
忙しい父に代わって、エドモンドが母を抑えなければならなかったのだが気難しい母を窘めるのは億劫なことだったために先延ばしにしたのだ。
見かけた時に注意すればいい。そう思って。
「リゼルの浮気はやはり仕組まれたものだったのでしょうか。」
「……リゼルも気の毒にな。お前がそんなんだから身の潔白証明も諦めて去ったのだろう。」
リゼルはエドモンドに失望して離婚を受け入れた。父はそう言ったのだ。
ひどく重い、何かを飲み込んでしまったように感じた。
父はシモーヌをエドモンドや母に近づけないためにリゼルと結婚させたということか。
シモーヌもしくはアストリー侯爵家と関わりを持ちたくない理由は何だ?
「私が倒れる前、調べていたことがある。他にも協力者がいるが、こうなったら後始末を全部お前に任せてしまおうと思う。」
エドモンドはいくつも父から指示を受け、何度も驚いた。
いかに自分が周りを見ていなかったか、何も考えようとしていなかったかがよくわかった。
「私ももっと早くルキアと離婚して追い出すべきだった。面倒だからと後回しにしたツケがコレだ。」
エドモンドは驚いた。父が倒れたのは母のせいだというのか。
「油断するな。……しかし、お前がアイツらと一緒に泥沼に沈みたいと思うなら私を殺しに来い。」
エドモンドはようやく悟った。父は息子である自分を信用していないのだ。
父につくか、母につくか。
だから、今まで何も話してくれなかった。
エドモンドが向こうに情報を流す可能性があるからだ。
だが、大詰めになり父が倒れた今、エドモンドは決断を迫られることになったのだ。
この数日後、レーゲン公爵家にシモーヌが姿を見せた。
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