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夫となったエドモンドとは、週に一度ほど閨事をする以外はあまり会話がない。
リゼルのことを知ろうとも思っていないようで、距離を縮める気はないようだった。

しかし、リゼルにとって少し心が軽くなると同時につらいことがあった。

エドモンドの執務室を初めて訪れたときのことだ。

ふと、エドモンドの机の上を見て驚いた。
かつてリゼルがエドモンドの誕生日に贈ったペンがあったのだ。

いや、それだけでなく統一感のない文具や置物が執務室にはいろいろあった。

リゼルがいろいろ見ていることに気づいたのか、エドモンドが苦笑しながら言った。


「私の趣味で置いているわけではないよ。誕生日に贈られたものがほとんどだ。
婚約者でもない女性から贈られたものを身に着けたり持ち歩いたりすると誤解を招くだろう?
だから、ここに置くしかない。
何度か使用した後は、欲しい者に使ってもらっている。
宝飾品などの過剰な贈り物は贈り主がわかっている場合は送り返している。」

「……ちゃんと使用されているのですね。」

「ああ。だってこれも領民からの税が使われているだろう?それに私のことを思って選んでくれた贈り物なのだから、一度は使うべきだと思ってる。まぁ、その後のことは有効活用していると思ってほしいな。全部使い続けることなどできないから。」

「そうですね。それは仕方のないことだと思います。」


やはり、エドモンドが贈り物を無残な姿に変えているというのはシモーヌの嘘だったのだ。

そうわかって、心が少し軽くなった。ひび割れた恋心が少し修復した気がした。
以前、憧れた姿の全てが虚構だったわけではない。優しい部分はちゃんとある。

エドモンドの裏の顔、消す人物リスト、あれらも全て嘘なのだろう。
リゼルの贈り物を誰からのものか調べることなく使っているエドモンドの様子を見ればわかる。
体を穢されたと言っていたこともエドモンドは体の関係はないと否定していたし。

しかし、シモーヌがメアリーにしたあの嘘の忠告は許せない。

実際にメアリーの妹が一時行方不明になったことから、メアリーは家族に手を出されることを恐れてエドモンドを殺そうとした。

シモーヌは目障りなメアリーを王都から消したかったのだろうが、メアリーは過剰な反応をしてしまった。

盗み聞きしていたリゼルも恐れたのだからメアリーの反応も他人事ではないのだが、あの時メアリーが思い詰めていなければ、エドモンドと結婚していたのはメアリーになっていただろう。

そしてその時にはシモーヌの嘘も明らかになっていたはず。

卒業パーティーのあの事件が本当に悔やまれる。

メアリーがエドモンドを殺す理由も自害する必要もどこにもなかったのだとリゼルはつらく思った。


あの事件の原因はシモーヌにあるのだと言いたい。
でも、シモーヌがメアリーに言った言葉を証明することができない。

リゼルが想像したことが正しいという証拠もない。

シモーヌを愛しているエドモンドが信じてくれるはずもない。

レーゲン公爵に話したところで、もう関係ない女だと言われるだけだろう。


誰にも言えない中、シモーヌをまだ慕っている者が多くいるこの屋敷で暮らすのは苦痛だった。


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