好きな人に振り向いてもらえないのはつらいこと。

しゃーりん

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エドモンドがこの部屋に来たのは、おそらく結婚式での誓いのキスをやらかした上に初夜を放棄することは絶対に許さないと厳命されたからではないだろうか。

それこそ、また廃嫡を匂わされて。

別に来なくてもよかったのに。というのがリゼルの本心でもある。
 

「あー……君も不本意だろうが、抱くぞ。」 


エドモンドが顔を近づけてきたので思わず手を口の前にかざして言った。


「今更、結構です。」


エドモンドは顔を引き攣らせたが、リゼルはエドモンドとキスしたいとは思わなかった。

何度も、何度も、エドモンドとシモーヌのキスを見せつけられたのだ。

エドモンドはどうして疑問に思わなかったのだろうか。
確かに婚約者ではなくなったシモーヌと部屋の中で2人きりになることはなかったのだろう。
しかし、屋敷から見える庭の四阿で2人でお茶を飲み恋人同士のように過ごす時間はリゼルが屋敷に来ている時間だったのだ。

婚約解消したシモーヌが母親の話し相手?……あり得ない。
母親とシモーヌが手を組んでリゼルに嫌がらせをしていたのを、シモーヌを諦めきれなかったエドモンドが実情を知らずに乗っかって、恋人のような逢瀬を楽しんでいたのだ。

リゼルが見ていたことをエドモンドは気づいていなかったのだろうけど、リゼルの恋心はどんどんひび割れることになった。

憧れと恋心。

まだ残っていたのだと何度も実感したのだ。 



キスは拒んだが、体は拒む気はない。それがわかったのか、エドモンドは愛撫し始めた。

いっそのこと、早く子供ができればこの公爵家での自分の立ち位置が定まるかもしれない。
 
そう思いながら、リゼルは純潔ではなくなった。


 

公爵家での結婚生活は、思っていた地獄よりはマシだったが決して居心地はよくない。

公爵夫人をお義母様と呼ぶと『あなたの母になった覚えはない』と言われるため公爵夫人と呼んでいる。
逆に公爵には『どうして義父と呼ばないのか』と言われたためお義父様と呼んでいる。
それを知り、公爵がいるところでだけ公爵夫人をお義母様と呼ぶことを命令された。

……めんどくさい。


侍女たちの中には、いまだシモーヌのことを口に出してリゼルがエドモンドに愛されないことを嘲笑する者がいる。
女主人である公爵夫人の指示なのか、それとも公爵家の使用人のレベルが低いのか。

屋敷の使用人全員がそうではない。

レーゲン公爵の近くにいる使用人はリゼルをエドモンドの妻として尊重してくれている。
エドモンドの周りの使用人も徐々に受け入れてくれている。

公爵夫人とその周り、そしてリゼルに仕える一部の使用人がひどかった。


 
「リゼル、その姿は……」


屋敷内だとしても傷跡が見えるような姿はベッドの上以外ではしたことがない。


「お見苦しいものをお見せして申し訳ございません。実家から持ってきた傷跡が隠れる服がことごとく使い物にならず侍女に着せられたのがコレだったのです。」


洗濯中だったり、ほつれがあって修繕中だったり、ワザとこぼされたジュースの染み抜き中だったり、いろいろ言い訳されて着るものがなく、侍女が用意していたのが傷跡が見える服だった。
しかも傷跡が目立つように髪まで纏め上げられ、ショールを頼んでも無視された。


「その侍女をクビにしろ。」


レーゲン公爵が淡々と言い、公爵夫人が声を上げた。


「ケリーは私が可愛がっている侍女ですのよ?わざわざリゼルさんにつけてあげたのに。」

「そんな役立たずな侍女などいらん。すぐに追い出せ。
リゼル、嫁いでから服を買っていないんだな?与えられた月の予算を超えても構わん。相応しいものを買うように。」

「ありがとうございます。」


そもそも、使用できる月の予算すら教えられていないのは公爵夫人の指示だろう。
 

 
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