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しおりを挟むエヴァンが言っていた通り、リゼルとエヴァンの婚約は解消された。
そして、傷の責任を取るということでレーゲン公爵家エドモンドとの婚約が決められた。
両親は、責任を取る必要はないと口にしたが、公爵が決めてしまったのだ。それ以上、断ることなどできなかったと父は項垂れた。
リゼルは呼ばれて、レーゲン公爵に挨拶をした。彼は頷いただけだった。
息子の婚約者が誰に代わろうと、たいして興味はないのだろう。
公爵家に迷惑をかけなければ問題ない。そう言われている気がした。
つまり、シモーヌの話は嘘だろうと思ってはいるが、エドモンドがリゼルの家に何か仕掛けようと思っていたとしてもレーゲン公爵が許すことはないだろう。
その点だけは安心できることになった。
レーゲン公爵は帰り際に言った。
「近々、エドモンドを見舞いに来させる。アイツと、アイツの母親はこの婚約に反対しているが私の決めたことに反論はさせない。いつかアイツらも目を覚ます。少しの間、耐えてくれ。」
耐えるというのは何を言われても我慢しろという意味だろう。
「わかりました。」
そう答える以外に言葉はなかった。
数日後、もうほとんど痛みも取れた頃にエドモンドはやってきた。
「見舞いが遅くなってすまない。傷はまだ痛むのか?」
「いえ、もうほとんど大丈夫です。お気遣いいただきありがとうございます。」
「………………」
エドモンドは言いたい、聞きたい、何かを我慢しているようだった。
……が、結局我慢できなかったようだ。
「どうして私を庇った?」
「……刃物の向かう先がわかりましたので。」
「普通、逆だろう?逃げるか、悲鳴を上げるか。護衛でもあるまいし身を挺して庇うバカがどこにいる!」
ここにいたのです。
「どうして放っておいてくれなかった?私が傷を受けていればこんなことにはならなかった!君は余計なことをしてくれたんだ!責任を取ることになるなんて、それを狙っていたのか?
私にはシモーヌがいるんだ!なのにどうして君なんかと………」
『君なんかと……』
『私なんかと』と自分でも思ってはいたけれど、エドモンドに直接言われると心にグサッと刺さった気がした。
レーゲン公爵はコレに耐えろと言ったのだろう。屋敷でもリゼルのことを罵っているに違いない。
「申し訳ございませんでした。」
謝ったところで時は戻せないのだが、他に言える言葉もない。
「君が謝ったところで父の決定が覆ることはないっ!」
なら何と言ってほしい?リゼルが傷を負ったことをエドモンドが責めるから謝罪した。
感謝の言葉であれば、謝罪はしなかっただろう。
結局、父親に従う選択をしたのは自分なのではないの?
シモーヌとの婚約解消届にサインをし、リゼルとの婚約届にサインをしたのは誰?
そう言ってやりたかったが、リゼルは耐えるしかないのだ。
理不尽な言葉の暴力を。
レーゲン公爵が言った、エドモンドが目を覚ますときまで。
貴族としての選択と一個人としての選択。
選び間違った先に後悔が大きいのはどちらだろうか。
それを、今のエドモンドはわかっていないのだ。
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