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この数日間、動けないリゼルはベッドの上でずっと考えていた。

自分が好意を抱いていたエドモンドは本当にそんな卑劣なことをする男なのだろうか、と。

あの人の、エドモンドの婚約者であるシモーヌが言ったことを耳にしたときは本当に恐ろしかった。
直接言われたメアリーはもっと恐ろしかっただろう。

しかもその日の夕方、メアリーの妹は馬車ごと行方不明になり、街の外の森近くで外から鍵を閉められた馬車の中にいるところを保護された。御者は行方不明のままらしい。

エドモンドの仕業だと思うのは当然だっただろう。

その2日後が卒業式、卒業パーティーだった。

メアリーは誰かに相談することなく、エドモンドを殺して自分も死のうと思い詰めたのだと思う。
 
それを、リゼルが邪魔してしまった。
 


だけど、シモーヌの話したことが本当だとも限らない。
そもそも、エドモンドに裏の顔があるなんて話を簡単に口にするだろうか。
それこそ、自分と家族の身を危険に晒す行為だというのに。

リゼルの知っているシモーヌは、エドモンドに愛されている婚約者。
ただ、少し性格はキツイように感じる。

エドモンドの言いなりになっていると感じたことはない。

2人が仲の良い婚約者を演じていたとしても、リゼルに見破ることなどできない。


それでも、エドモンドにそんな後ろ暗い面があると信じられないのだ。

シモーヌがメアリーを邪魔に感じて嘘を言った可能性もある。

冷静になって考えてみると、そう思うようになった。


エドモンドを庇って傷を負ったことで、一度くらいは彼がここに見舞いに来るかもしれない。
それが彼と関わる最後になるだろう。
万が一、リストがあるのだとしても、リゼルは王都からいなくなるので許してほしい。そう思った。 


 



婚約者のエヴァンが見舞いにやってきた。
リゼルはエドモンドが、エヴァンはシモーヌが好きで婚約者といっても友人みたいな関係だった。


「傷は痛むか?」

「まだ動かすと少し。でも、だいぶマシになったわ。」

「そっか。……俺たちの婚約解消の話、聞いたか?」

「聞いてないわ。やっぱりそうなのね。傷物だものね。」

「いや、俺や両親が言い出したんじゃないぞ?レーゲン公爵家だ。エドモンドの父親だよ。」

「どういうこと?」

「息子を庇って傷を負った令嬢の責任を取らなければならない、って。よかったな?」

「はぁ……?よくない。よくないわ?」


そんな責任の取り方は必要ないわ。社交界で傷を晒すことなんてできないし。
しかも、エドモンドはシモーヌを愛している。
それは周知の事実なのに、傷を負ったリゼルと結婚するとなると愛されない妻だと笑い者になる。

 
「そんな結婚、誰も幸せになんてなれないじゃない。」

「だがな、実はシモーヌ嬢のアストリー侯爵家が多額の負債を抱えたって話もある。だから公爵はリゼルの傷を口実にエドモンドの結婚相手を変える気だってうちの父親は言ってた。」


負債……シモーヌはメアリーを排除しようとしたとか?


メアリーのクロップ伯爵家は資産家だった。
シモーヌとエドモンドの婚約が解消されると、エドモンドの次の婚約者に選ばれるのは、婚約者のいないメアリーが有力候補になっていたに違いないから。
 


 
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