4 / 7
4.
しおりを挟む「何故こんなことに…」
「ライラがリュージュ伯爵が婚約者だと言ってしまったことが発端のようです。申し訳ない。」
この時点ですでにケントの廃籍は済んでおり、ライラとの婚約は解消されている。
実は、婚約手続きは必ずしも必要ではなく、そのまま結婚しても法の上では問題ない。
ただ、結婚の数か月~1年前には教会に予約をするため、調べれば事前にわかる。
正式に婚約を結ぶ利点は、事業に影響がある場合や上位貴族からの婚約申込を回避できることである。
ちなみに書面で婚約を結んだか口約束かは言わなければわからないが、貴族は慣習上、書面が多い。
なので、ライラがリュージュ伯爵と婚約していると言ったことが事実のように聞こえてしまう。
そして4か月後の結婚式の教会は申し込んだままであり、その予約者はリュージュ伯爵家とマロリー伯爵家。
個人名ではなく家名で押さえている。
これも稀に結婚相手が兄弟姉妹に変更されることがあるため、珍しくない。
ご丁寧に調べたどこかの誰かのお陰で、噂は補強されつつある。
「リュージュ伯爵、ライラは今日で最終試験が終わり、ひと月後の卒業まで午後は毎日時間があります。
おそらく、これから伯爵家へ喜んで通うつもりでしょう。
記憶は戻っていないし、ライラの中だけでなく世間的にあなたは婚約者になってしまった。
今が最後の分かれ道です。ライラを受け入れますか?拒否しますか?」
「マロリー伯爵、夫人、あなた方はライラ嬢を私に嫁がせることに抵抗はないのですか?」
「あなたを婚約者だと思ってるライラは、毎日が楽しそうです。
失礼だが、ケント君の時には見られなかった姿だ。
たとえあなたとの結婚後に記憶が戻ったとしても、あの子はそのまま受け入れるでしょう。
妻となることを拒否され、平民としてあなたの側にいることも拒否されますか?」
リュージュ伯爵を答えようとした時、応接室のドアがノックされライラが入室した。
「ただいま帰りました。
テオドール様、いらっしゃいませ。久しぶりにお会いできて嬉しいです。
ひょっとして、迎えに来て下さったのですか?」
ライラが輝くような笑顔を向けて言う。
「ああ。ライラ嬢。
試験が終わったんだってね。
良ければ、一緒にうちへ行こう。着替えておいで。」
「わかりました。準備してきますね。」
ライラが退室し、テオドールはライラの両親に向けて頭を下げた。
「ライラ嬢との結婚をお許しください。
あの笑顔を曇らせるようなことを私はしたくないと思ってしまった。
若い妻を娶ることによる周りからの妬みや嫉みを私は受け止めます。」
「わかりました。ライラをよろしくお願いいたします。
元々、結婚式も披露宴も身内だけの予定で、発送もまだでしたね。
お互い身内が少なく小うるさい親族がいなくて幸いでした。
あと必要なのは、あなたの衣装くらいです。
ライラは初婚です。式は面倒でしょうが、ライラのウエディングドレス姿を我々は楽しみにしてるのです。
覚悟してくださいね。」
「ライラ嬢の思いのままに、お手伝いさせて頂きます。」
そこに、ライラが戻ってきた。
「お父様、テオドール様も昼食をご一緒していいわよね?
準備してくれてるそうなの。
食堂へ行きましょ?」
四人は昼食を食べながら、今後の予定を話し合っていた。
結婚式に出席する身内の最終確認と発送が最優先。
リュージュ伯爵家の内装や家具の見直し。
披露宴(昼食会)のメニューや宿泊の有無。
その後、ライラはテオドールと馬車に乗り、リュージュ家へと向かった。
応接室に入りライラに、着替えてくるので少しの間ここにいるように伝える。
その隙に、執事に侍女侍従を集めさせた。
テオドール自身がライラと結婚すること。
ケントの話はしないこと。
これから4ヶ月後の結婚に向けてライラがよく来るようになるので、女主人として接すること。
それらを周知するよう伝えた。
ライラを呼びに行き、皆の前で改めて報告した。
「皆も知っていると思うが、マロリー伯爵家のライラ嬢、私の婚約者だ。
4ヶ月後の結婚に向けて、今日から女主人として皆には接してもらう。
彼女の指示に従うように。以上だ。」
「ライラです。いろいろ教えてくださいね。よろしくお願いします。」
使用人に挨拶した後、テオドールに案内されたのは私室であった。
「ここが私の部屋で寝る時はこの個人用で寝ている。
隣に通じるドアがこれだ。隣は使っていないが、通常は夫婦の寝室になる場所だ。
その向こう側のドアが君の私室になる部屋だ。」
そう言い、ドアを開けてくれた。
夫婦の寝室にもライラの私室になる部屋も…空っぽだった。
156
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説
【完結】私の愛する人は、あなただけなのだから
よどら文鳥
恋愛
私ヒマリ=ファールドとレン=ジェイムスは、小さい頃から仲が良かった。
五年前からは恋仲になり、その後両親をなんとか説得して婚約まで発展した。
私たちは相思相愛で理想のカップルと言えるほど良い関係だと思っていた。
だが、レンからいきなり婚約破棄して欲しいと言われてしまう。
「俺には最愛の女性がいる。その人の幸せを第一に考えている」
この言葉を聞いて涙を流しながらその場を去る。
あれほど酷いことを言われってしまったのに、私はそれでもレンのことばかり考えてしまっている。
婚約破棄された当日、ギャレット=メルトラ第二王子殿下から縁談の話が来ていることをお父様から聞く。
両親は恋人ごっこなど終わりにして王子と結婚しろと強く言われてしまう。
だが、それでも私の心の中には……。
※冒頭はざまぁっぽいですが、ざまぁがメインではありません。
※第一話投稿の段階で完結まで全て書き終えていますので、途中で更新が止まることはありませんのでご安心ください。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
この罰は永遠に
豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」
「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」
「……ふうん」
その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。
なろう様でも公開中です。
私の婚約者でも無いのに、婚約破棄とか何事ですか?
狼狼3
恋愛
「お前のような冷たくて愛想の無い女などと結婚出来るものか。もうお前とは絶交……そして、婚約破棄だ。じゃあな、グラッセマロン。」
「いやいや。私もう結婚してますし、貴方誰ですか?」
「俺を知らないだと………?冗談はよしてくれ。お前の愛するカーナトリエだぞ?」
「知らないですよ。……もしかして、夫の友達ですか?夫が帰ってくるまで家使いますか?……」
「だから、お前の夫が俺だって──」
少しずつ日差しが強くなっている頃。
昼食を作ろうと材料を買いに行こうとしたら、婚約者と名乗る人が居ました。
……誰コイツ。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる