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ブルーエ伯爵夫人は自分の子供であるテオルドが病気になるような薬を長年飲ませ続けていた。

それを処方したのがロンバード医師ということだ。

テオルドはもう長くはないと思われるくらいだったのだ。
それで跡継ぎからも外された。
どうして息子にそんなことを………

意味がわからない。


「長くなるわ。座って話しましょう。」


伯爵夫人は私たちレイド家の者もそのままいてくれていいと言った。
テオルドがソファに座ると、改めて伯爵夫人は話を始めた。


「テオルド、あなたは私が産んだ息子じゃないわ。」 


まさか、そんなことは想像もしていなかった。
だけど、確かにあまり母親らしい言動を見たことも聞いたこともなかった。


「あなたは夫と私の妹との間に産まれた子よ。」


伯爵夫人は、結婚して3年間子供ができなかった。
そんな時、両親と喧嘩して屋敷に遊びに来た妹と伯爵が関係を持ったという。
そのことに気づかないまま、妹の滞在をふた月も許していた。

そして、妹が妊娠したのだ。

『お姉様、次期伯爵夫人の座を譲ってくださる?』

そんなことは認められなかった。
社交界的にも嘲笑の的になる。ブルーエ家も、自分も妹も。

当時の伯爵夫妻も難色を示した。
なぜならば、妹は自由奔放な性格だったからだ。そのせいで婚約も決まらなかった。
次期伯爵夫人にすると、何をしでかすかはわからない。

なので、子供だけ引き取るということになった。

しかし、それを許すことも腹立たしく思い、当時はまだ見習いだったロンバード医師に堕胎薬を手配してもらうように依頼した。
そのために借金を払ってやったというのに、ロンバード医師は堕胎させることに怖じ気づいてしまった。

妹の腹はどんどんと大きくなり、産むしかなくなった。

やがてテオルドを出産した妹は、口止めの大金を手にして国を出て行ったという。
家出扱いになっており、今もどこにいるかは知らない。

テオルドは自分が産んだ子供として育てられることになった。

だが、テオルドは夫が自分を裏切った証。 

元気な姿を見ると怒りが湧いてきた。

ロンバード医師に、今度こそ協力するようにと様々な薬を用意させた。
殺すわけではない、だけど元気ではいられないような症状を長年保たせた。


そんな時、いつまでも病弱なテオルドに危機感を抱いた伯爵が、昔、浮気した女性に自分の子供がいたことを思い出して確認したという。

そして連れ帰るという手紙が先に届き、伯爵がティムを連れ帰った。

ティムに見込みがあれば、テオルドの代わりに跡継ぎにすると言い出した伯爵。

サリューシアに一目惚れをしたティムは、学園での庶子だという虐めも気にせず努力をして跡継ぎに認められた。

テオルドに代わってティムがサリューシアの婚約者になり、テオルドは不要になった。
このまま死ぬのであれば目の届かないところで、と思い領地へと追いやった。
 
今度はティムに怒りをぶつけようと思っていたが、同じ手は使えない。
方法を悩んでいた時に、リズがティムの子供を連れてやってきた。

リムを『嫡子』にする。

これはブルーエ家に対する報復の機会だと思った。

妹との浮気に加えて、ティムの母親とも浮気をしていたことを詰ると伯爵はリムを嫡子にすることに同意した。

そして、ブルーエ家が平民貴族だと言われて落ちぶれていくのを楽しみに見るつもりだった。 
 

伯爵夫人はそう語った。



 

 
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