7 / 23
7.
しおりを挟むテラスの方へと向かっていた時、庭園の茂みの中から声が聞こえた。
「ここよ!ティム。
どうだった?リムのこと、婚約者の人たち怒ってなかった?」
「リムのことは特に怒ってはいなかったけど、嫡子にすることは反対のようだったな。
やっぱりリムが跡継ぎになるって非常識なことなんだなって思ったよ。」
ティムとあの時のリズって女性が話をしているのね。
私がテラスに行くってわかっているのに、こんなところで逢引きするなんて。
「でも、あなたのお父さんたちは認めてくれたし。
ここに嫁ぐんだから、ここに合わせるもんなんじゃない?
それよりも、私がこのままここにいてもいいって言ってくれた?」
「それは、まだ聞いてない。今から聞くんだ。でも、それもやっぱり非常識じゃないかな。」
当たり前じゃない。非常識過ぎるわ。
ティムはまだリズよりも常識があるわね。1年半以上貴族として暮らしてきたからかしら。
「どうして?私はリムの母親なんだし。一緒に暮らすべきでしょ?
私は貴族じゃないから、貴族としての表向きの仕事は婚約者の人に任せるわ。
でも、この屋敷の中ではリムの母親だしティムの恋人でしょ?」
「そうだけど。まぁ、多分サリューシアは優しいから認めてくれるかもな。」
どうして認めるのよ!優しいからっておかしくない?
彼女が許されるなら、使用人の中からも愛人候補が出てきて一緒に暮らすと言い出すわよ。
平民の恋人が既に夫の子供を産んでいるとわかった上で嫁ぐというのに、その恋人との同居を許す貴族夫人がいるわけないじゃないの。
非常識かもって思ったなら、言い包められたらダメでしょ!
「きっと大丈夫だよ。それに結婚まであと1年半以上あるんでしょ?
結婚するまでは婚約者の人もここには住まないんだし、私に気づかないかもよ?
私の顔なんて忘れてるだろうから、このままティムとリムのそばにいれるんじゃないかな。
結婚する頃にはもうリムと私を離すなんてひどいことできなくなるわ。
そうすれば、リムの母親でティムの恋人のままここに居続けても何も言えなくなると思うよ。」
「そうか。それもそうだな。あ、そろそろサリューシアが来るかも。言ってくる。」
「あ、待って。」
少しの間、会話は聞こえなかった。が、鼻にかかるような吐息が聞こえた気がした。
姿が見えていなくても、何をしていたかはわかった。
「今日の夜も部屋で待ってるからね。」
「お前なぁ、今から婚約者に会うってのに、濃厚なキスしやがって。お前の紅がついてないか?」
「ん。これで大丈夫。」
「じゃあまた夜にな。」
………ふ~ん。この屋敷に来てからも体の関係を持ってるのね。
子供が出来たのは、まだ平民時代の行為の結果だったから、辛うじて許せる範囲ではあったわ。
だけど、伯爵家の庶子だと知らされており、これから貴族になるって時に無責任なことをした愚か者だとも思ったけれどね。
それなのに、私という婚約者がいる上でまだ関係を続けているなんて、見損なったわ。
ティムへの好感はだだ下がりで地に落ちたわ。
そして、2人の関係を許しているブルーエ伯爵夫妻への信頼も地に落ちた。
121
お気に入りに追加
757
あなたにおすすめの小説
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
婚約破棄された令嬢のささやかな幸福
香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。
しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。
「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」
婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。
婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。
ならば一人で生きていくだけ。
アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。
「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」
初めての一人暮らしを満喫するアリシア。
趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。
「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」
何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。
しかし丁重にお断りした翌日、
「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」
妹までもがやってくる始末。
しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。
「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」
家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。
貴方もヒロインのところに行くのね? [完]
風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは
アカデミーに入学すると生活が一変し
てしまった
友人となったサブリナはマデリーンと
仲良くなった男性を次々と奪っていき
そしてマデリーンに愛を告白した
バーレンまでもがサブリナと一緒に居た
マデリーンは過去に決別して
隣国へと旅立ち新しい生活を送る。
そして帰国したマデリーンは
目を引く美しい蝶になっていた
お飾り王妃の愛と献身
石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。
けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。
ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。
国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。
婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。
松ノ木るな
恋愛
純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。
伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。
あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。
どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。
たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる