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テラスの方へと向かっていた時、庭園の茂みの中から声が聞こえた。


「ここよ!ティム。
 どうだった?リムのこと、婚約者の人たち怒ってなかった?」
 
「リムのことは特に怒ってはいなかったけど、嫡子にすることは反対のようだったな。
 やっぱりリムが跡継ぎになるって非常識なことなんだなって思ったよ。」


ティムとあの時のリズって女性が話をしているのね。
私がテラスに行くってわかっているのに、こんなところで逢引きするなんて。


「でも、あなたのお父さんたちは認めてくれたし。
 ここに嫁ぐんだから、ここに合わせるもんなんじゃない?
 それよりも、私がこのままここにいてもいいって言ってくれた?」

「それは、まだ聞いてない。今から聞くんだ。でも、それもやっぱり非常識じゃないかな。」


当たり前じゃない。非常識過ぎるわ。
ティムはまだリズよりも常識があるわね。1年半以上貴族として暮らしてきたからかしら。


「どうして?私はリムの母親なんだし。一緒に暮らすべきでしょ?
 私は貴族じゃないから、貴族としての表向きの仕事は婚約者の人に任せるわ。
 でも、この屋敷の中ではリムの母親だしティムの恋人でしょ?」

「そうだけど。まぁ、多分サリューシアは優しいから認めてくれるかもな。」


どうして認めるのよ!優しいからっておかしくない?
彼女が許されるなら、使用人の中からも愛人候補が出てきて一緒に暮らすと言い出すわよ。
平民の恋人が既に夫の子供を産んでいるとわかった上で嫁ぐというのに、その恋人との同居を許す貴族夫人がいるわけないじゃないの。
非常識かもって思ったなら、言い包められたらダメでしょ!


「きっと大丈夫だよ。それに結婚まであと1年半以上あるんでしょ?
 結婚するまでは婚約者の人もここには住まないんだし、私に気づかないかもよ?
 私の顔なんて忘れてるだろうから、このままティムとリムのそばにいれるんじゃないかな。
 結婚する頃にはもうリムと私を離すなんてひどいことできなくなるわ。
 そうすれば、リムの母親でティムの恋人のままここに居続けても何も言えなくなると思うよ。」

「そうか。それもそうだな。あ、そろそろサリューシアが来るかも。言ってくる。」

「あ、待って。」


少しの間、会話は聞こえなかった。が、鼻にかかるような吐息が聞こえた気がした。
姿が見えていなくても、何をしていたかはわかった。


「今日の夜も部屋で待ってるからね。」

「お前なぁ、今から婚約者に会うってのに、濃厚なキスしやがって。お前の紅がついてないか?」
 
「ん。これで大丈夫。」

「じゃあまた夜にな。」


………ふ~ん。この屋敷に来てからも体の関係を持ってるのね。


子供が出来たのは、まだ平民時代の行為の結果だったから、辛うじて許せる範囲ではあったわ。
だけど、伯爵家の庶子だと知らされており、これから貴族になるって時に無責任なことをした愚か者だとも思ったけれどね。

それなのに、私という婚約者がいる上でまだ関係を続けているなんて、見損なったわ。


ティムへの好感はだだ下がりで地に落ちたわ。

そして、2人の関係を許しているブルーエ伯爵夫妻への信頼も地に落ちた。 






 






 
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