分厚いメガネを外した令嬢は美人?

しゃーりん

文字の大きさ
上 下
4 / 44

4.

しおりを挟む
 
 
ミーシャの16歳の誕生日当日、結婚相手の遣いの者が婚姻届と離籍届を持ってやってきた。

相手側のサインはもう記入済であった。
父と私はそれぞれにサインをし、その瞬間に家族ではなくなったと思った。
そして誰からも声をかけられることなく家から出た。
思わず、大きく息を吸って吐き出した。ため息ではない。深呼吸だった。
その後、自然に笑みがこぼれたことで、あの家がどんなに息苦しかったのかがわかった。

そんな私の様子を見て、馬車に乗った後に遣いの方が笑っていた。


「家の中と外とで雰囲気が変わりましたね。呼吸が楽になりましたか?」

「はい。何だかスッキリしました。あ、ミーシャです。よろしくお願いします。」

「改めまして、アロイス様の侍従のサイロと申します。こちらこそよろしくお願いします。
 まず、このまま届を提出しに行きますね。
 それからアロイス様のところへお連れします。順序が変ですみません。」

「いえ。あの、私アロイス様のことを何も知らなくて。
 何か事前に知っておいた方がいいと思われることはありませんか?」

「う~ん。心配いりませんよ?気難しい方でもございませんので。
 ですが、あまり病人扱いすると眉間に皺がよりますね。」


サイロが眉間を指して皺をよせながら言った。


「そうなのですね。ご病気は長いのですか?」

「いえ、この数か月ですね。それまではお元気でいらっしゃいましたが…
 誰しも病には敵わないものですね。」


しんみりしてしまったところで届を出す役所に着いた。
『出してすぐに戻ってまいりま~す』とサイロが出て行き、ほんの数分で戻ってきた。


「おめでとうございま~す。ミーシャ夫人になりましたよ~。」

「あ、ありがとうございます?」


そっか。届を出したから、もう既婚者だった。びっくり!相手も知らないのに。


「じゃあ、屋敷に向かいますね。
 あ、アロイス様は現在は侯爵家敷地内の別邸にお住まいです。
 その方が、かかりつけ医が診やすいのでね。
 以前は違うところにお住まいだったんですけど。」

「侯爵邸?!ひょっとしてご挨拶が必要ですか?」

「そうですね~。今日ではありませんが近いうちには。
 アロイス様のそばにいることになるのですから、どの道会うことは避けられませんし。」


それはそうか。雲の上のような方々に会う気分だけどね…

 
「大丈夫ですよ~。皆様お優しいです。
 ですが、卑屈な言動はお好きではないので謙遜も遠慮も程々にお願いしますね~。」


卑屈、謙遜、遠慮…なんだか自分の言動を言われている気がしたけれど、それは少し前までのミーシャだと思うことにした。
あの家族と離れたのに前と同じでは意味がない。
胸を張ろうと背筋を伸ばすと、あちこちがポキポキっと鳴った気がした。


「さあ、着きましたよ~。」


馬車が止まり、降りようとすると手が差し伸べられたのでサイロさんだと思い、手を借りて降りた。
お礼を言おうと見上げると、そこにいたのは教会で会っていた、あのおじいさんだった。
 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

【短編】将来の王太子妃が婚約破棄をされました。宣言した相手は聖女と王太子。あれ何やら二人の様子がおかしい……

しろねこ。
恋愛
「婚約破棄させてもらうわね!」 そう言われたのは銀髪青眼のすらりとした美女だ。 魔法が使えないものの、王太子妃教育も受けている彼女だが、その言葉をうけて見に見えて顔色が悪くなった。 「アリス様、冗談は止してください」 震える声でそう言うも、アリスの呼びかけで場が一変する。 「冗談ではありません、エリック様ぁ」 甘えた声を出し呼んだのは、この国の王太子だ。 彼もまた同様に婚約破棄を謳い、皆の前で発表する。 「王太子と聖女が結婚するのは当然だろ?」 この国の伝承で、建国の際に王太子の手助けをした聖女は平民の出でありながら王太子と結婚をし、後の王妃となっている。 聖女は治癒と癒やしの魔法を持ち、他にも魔物を退けられる力があるという。 魔法を使えないレナンとは大違いだ。 それ故に聖女と認められたアリスは、王太子であるエリックの妻になる! というのだが…… 「これは何の余興でしょう? エリック様に似ている方まで用意して」 そう言うレナンの顔色はかなり悪い。 この状況をまともに受け止めたくないようだ。 そんな彼女を支えるようにして控えていた護衛騎士は寄り添った。 彼女の気持ちまでも守るかのように。 ハピエン、ご都合主義、両思いが大好きです。 同名キャラで様々な話を書いています。 話により立場や家名が変わりますが、基本の性格は変わりません。 お気に入りのキャラ達の、色々なシチュエーションの話がみたくてこのような形式で書いています。 中編くらいで前後の模様を書けたら書きたいです(^^) カクヨムさんでも掲載中。

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?

宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。 そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。 婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。 彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。 婚約者を前に彼らはどうするのだろうか? 短編になる予定です。 たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます! 【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。 ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。 それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。 アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。 今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。 だが、彼女はある日聞いてしまう。 「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。 ───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。 それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。 そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。 ※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。 ※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。

神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました

青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。 それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

処理中です...