分厚いメガネを外した令嬢は美人?

しゃーりん

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ミーシャの16歳の誕生日当日、結婚相手の遣いの者が婚姻届と離籍届を持ってやってきた。

相手側のサインはもう記入済であった。
父と私はそれぞれにサインをし、その瞬間に家族ではなくなったと思った。
そして誰からも声をかけられることなく家から出た。
思わず、大きく息を吸って吐き出した。ため息ではない。深呼吸だった。
その後、自然に笑みがこぼれたことで、あの家がどんなに息苦しかったのかがわかった。

そんな私の様子を見て、馬車に乗った後に遣いの方が笑っていた。


「家の中と外とで雰囲気が変わりましたね。呼吸が楽になりましたか?」

「はい。何だかスッキリしました。あ、ミーシャです。よろしくお願いします。」

「改めまして、アロイス様の侍従のサイロと申します。こちらこそよろしくお願いします。
 まず、このまま届を提出しに行きますね。
 それからアロイス様のところへお連れします。順序が変ですみません。」

「いえ。あの、私アロイス様のことを何も知らなくて。
 何か事前に知っておいた方がいいと思われることはありませんか?」

「う~ん。心配いりませんよ?気難しい方でもございませんので。
 ですが、あまり病人扱いすると眉間に皺がよりますね。」


サイロが眉間を指して皺をよせながら言った。


「そうなのですね。ご病気は長いのですか?」

「いえ、この数か月ですね。それまではお元気でいらっしゃいましたが…
 誰しも病には敵わないものですね。」


しんみりしてしまったところで届を出す役所に着いた。
『出してすぐに戻ってまいりま~す』とサイロが出て行き、ほんの数分で戻ってきた。


「おめでとうございま~す。ミーシャ夫人になりましたよ~。」

「あ、ありがとうございます?」


そっか。届を出したから、もう既婚者だった。びっくり!相手も知らないのに。


「じゃあ、屋敷に向かいますね。
 あ、アロイス様は現在は侯爵家敷地内の別邸にお住まいです。
 その方が、かかりつけ医が診やすいのでね。
 以前は違うところにお住まいだったんですけど。」

「侯爵邸?!ひょっとしてご挨拶が必要ですか?」

「そうですね~。今日ではありませんが近いうちには。
 アロイス様のそばにいることになるのですから、どの道会うことは避けられませんし。」


それはそうか。雲の上のような方々に会う気分だけどね…

 
「大丈夫ですよ~。皆様お優しいです。
 ですが、卑屈な言動はお好きではないので謙遜も遠慮も程々にお願いしますね~。」


卑屈、謙遜、遠慮…なんだか自分の言動を言われている気がしたけれど、それは少し前までのミーシャだと思うことにした。
あの家族と離れたのに前と同じでは意味がない。
胸を張ろうと背筋を伸ばすと、あちこちがポキポキっと鳴った気がした。


「さあ、着きましたよ~。」


馬車が止まり、降りようとすると手が差し伸べられたのでサイロさんだと思い、手を借りて降りた。
お礼を言おうと見上げると、そこにいたのは教会で会っていた、あのおじいさんだった。
 

 
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