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元婚約者ドリューズに、幸せになる手伝いをしたいとしたいと言われてフォルティアの心は複雑な思いを感じていた。 


「私にはよくわからないわ。あなたの幸せに繋がるとは思えないもの。」

「ははっ。そうだね。実際、幸せな結婚生活じゃないって聞いていたのに、君は妊娠して夫にも気遣われるようになった。それでも、君がつらい思いをしていないのであれば僕の不安も減るから。」


傍から見れば、ディカルドが亡くなる前のひと月は夫婦としてうまくいっているように思われたことはわかる。
だからこそ余計に、ドリューズに対し、気まずく感じたのだと思う。

『お腹の子は夫の子ではないし、夫の気遣いも妊娠前には全くなかったのよ』と言いたかった。

そもそも、妊娠5か月まで妻の妊娠を知らない夫とうまくいっているわけがない。

あら?

『ドリューズ様に不幸せに見られたかったのかしら?』と少し意味不明な思考に陥った。
 
そこで気づいた。

まるで浮気と勘違いされたくなくて、言い訳しているみたいだ、と。

つまりは、ディカルドよりもドリューズに対する気持ちの方が上にあったのだ。


気づかなかった。
そして、ドリューズが追いかけて来てくれたように思えて、嬉しかった。

そう。嬉しく思ったのだ。

元婚約者が幸せになる手伝いがしたいだなんて、付きまとわれているようで気持ち悪いと思ってもおかしくないのに、そう思わなかった。

あまりにも頭がおかしい侯爵夫妻と暮らしていたことで、ドリューズも十分おかしいのに好きだと言ってくれただけで頼りたくなってしまった。

兄も、ドリューズならフォルティアを困らせるようなことはしないと判断して派遣したに違いない。

少しおかしくなって、笑ってしまった。


「ふふ。ドリューズ様、ラフォーレ家は大掃除を済ませたところなのです。私は侯爵家を継ぐこのお腹の子と幸せになっていくつもりです。
まだ実家からの援助で立て直しの最中ですが、ドリューズ様はこれからもお手伝いしてくれますか?」

「もちろん。」

「時々、こうしてお茶に付き合ってくれますか?」

「喜んで。」

「子供が産まれたら、一緒に遊んでやってくれますか?」

「父親代わりになりたいくらいだ。」

「まあ嬉しい。」

「そしてできれば、君の一番そばにいる男になりたい。」


結婚はできない。
ドリューズと結婚すれば、ラフォーレの立て直しが終わった途端、子供を置いて出て行けと言われるかもしれないから。
フォルティアはラフォーレに不要だと言われて子供と引き離されては困る。


でも、恋人にはなれる。

社交のパートナーにもなれる。

フォルティアは未亡人なのだから、ドリューズと愛を育もうが非難されない。 
  

「あなたにそばにいてほしいわ。」


フォルティアは自覚のなかった恋をドリューズと再び始めることに決めた。

今度こそ、幸せになれるように。




数か月後、フォルティアは男の子を産んだ。

次期ラフォーレ侯爵である。

亡き夫ディカルドの子ではないけれど、ディカルドの子として育てることになる。

幸い、瞳と髪色はフォルティアに似た。

カールの顔も色目も知らないけれど、誰にも疑われずに済むと安心した。




領地で暮らしている侯爵夫妻については、夫人は何を思ったのか二階のベランダから落ちて寝たきりになってしまったという。
時々、フォルティアのお腹の子はディカルドの子じゃなくカールの子だとわめいているらしいが、誰も相手にしない。

侯爵の方は、狩猟を楽しみ、酒を楽しみ、魚釣りを楽しみ、カードゲームを楽しみ、人生を謳歌している。
侯爵としての仕事は全くしないが、それはフォルティアの父がそう仕向けているそうだ。
変に仕事に手を出したり、投資話で詐欺にあったりしないよう、関わらせないのだ。

お陰で、ラフォーレ侯爵領は順調に回復を遂げている。



その後のフォルティアは、ドリューズを内縁の夫として仲睦まじく幸せに暮らした。


<終わり>
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