21 / 21
21.
しおりを挟む元婚約者ドリューズに、幸せになる手伝いをしたいとしたいと言われてフォルティアの心は複雑な思いを感じていた。
「私にはよくわからないわ。あなたの幸せに繋がるとは思えないもの。」
「ははっ。そうだね。実際、幸せな結婚生活じゃないって聞いていたのに、君は妊娠して夫にも気遣われるようになった。それでも、君がつらい思いをしていないのであれば僕の不安も減るから。」
傍から見れば、ディカルドが亡くなる前のひと月は夫婦としてうまくいっているように思われたことはわかる。
だからこそ余計に、ドリューズに対し、気まずく感じたのだと思う。
『お腹の子は夫の子ではないし、夫の気遣いも妊娠前には全くなかったのよ』と言いたかった。
そもそも、妊娠5か月まで妻の妊娠を知らない夫とうまくいっているわけがない。
あら?
『ドリューズ様に不幸せに見られたかったのかしら?』と少し意味不明な思考に陥った。
そこで気づいた。
まるで浮気と勘違いされたくなくて、言い訳しているみたいだ、と。
つまりは、ディカルドよりもドリューズに対する気持ちの方が上にあったのだ。
気づかなかった。
そして、ドリューズが追いかけて来てくれたように思えて、嬉しかった。
そう。嬉しく思ったのだ。
元婚約者が幸せになる手伝いがしたいだなんて、付きまとわれているようで気持ち悪いと思ってもおかしくないのに、そう思わなかった。
あまりにも頭がおかしい侯爵夫妻と暮らしていたことで、ドリューズも十分おかしいのに好きだと言ってくれただけで頼りたくなってしまった。
兄も、ドリューズならフォルティアを困らせるようなことはしないと判断して派遣したに違いない。
少しおかしくなって、笑ってしまった。
「ふふ。ドリューズ様、ラフォーレ家は大掃除を済ませたところなのです。私は侯爵家を継ぐこのお腹の子と幸せになっていくつもりです。
まだ実家からの援助で立て直しの最中ですが、ドリューズ様はこれからもお手伝いしてくれますか?」
「もちろん。」
「時々、こうしてお茶に付き合ってくれますか?」
「喜んで。」
「子供が産まれたら、一緒に遊んでやってくれますか?」
「父親代わりになりたいくらいだ。」
「まあ嬉しい。」
「そしてできれば、君の一番そばにいる男になりたい。」
結婚はできない。
ドリューズと結婚すれば、ラフォーレの立て直しが終わった途端、子供を置いて出て行けと言われるかもしれないから。
フォルティアはラフォーレに不要だと言われて子供と引き離されては困る。
でも、恋人にはなれる。
社交のパートナーにもなれる。
フォルティアは未亡人なのだから、ドリューズと愛を育もうが非難されない。
「あなたにそばにいてほしいわ。」
フォルティアは自覚のなかった恋をドリューズと再び始めることに決めた。
今度こそ、幸せになれるように。
数か月後、フォルティアは男の子を産んだ。
次期ラフォーレ侯爵である。
亡き夫ディカルドの子ではないけれど、ディカルドの子として育てることになる。
幸い、瞳と髪色はフォルティアに似た。
カールの顔も色目も知らないけれど、誰にも疑われずに済むと安心した。
領地で暮らしている侯爵夫妻については、夫人は何を思ったのか二階のベランダから落ちて寝たきりになってしまったという。
時々、フォルティアのお腹の子はディカルドの子じゃなくカールの子だとわめいているらしいが、誰も相手にしない。
侯爵の方は、狩猟を楽しみ、酒を楽しみ、魚釣りを楽しみ、カードゲームを楽しみ、人生を謳歌している。
侯爵としての仕事は全くしないが、それはフォルティアの父がそう仕向けているそうだ。
変に仕事に手を出したり、投資話で詐欺にあったりしないよう、関わらせないのだ。
お陰で、ラフォーレ侯爵領は順調に回復を遂げている。
その後のフォルティアは、ドリューズを内縁の夫として仲睦まじく幸せに暮らした。
<終わり>
751
お気に入りに追加
764
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
愛のない貴方からの婚約破棄は受け入れますが、その不貞の代償は大きいですよ?
日々埋没。
恋愛
公爵令嬢アズールサは隣国の男爵令嬢による嘘のイジメ被害告発のせいで、婚約者の王太子から婚約破棄を告げられる。
「どうぞご自由に。私なら傲慢な殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」
しかし愛のない政略結婚でこれまで冷遇されてきたアズールサは二つ返事で了承し、晴れて邪魔な婚約者を男爵令嬢に押し付けることに成功する。
「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って実は〇〇ですよ? まあ独り言ですが」
嘘つき男爵令嬢に騙された王太子は取り返しのつかない最期を迎えることになり……。
※この作品は過去に公開したことのある作品に修正を加えたものです。
またこの作品とは別に、他サイトでも本作を元にしたリメイク作を別のペンネー厶で公開していますがそのことをあらかじめご了承ください。
【本編完結】独りよがりの初恋でした
須木 水夏
恋愛
好きだった人。ずっと好きだった人。その人のそばに居たくて、そばに居るために頑張ってた。
それが全く意味の無いことだなんて、知らなかったから。
アンティーヌは図書館の本棚の影で聞いてしまう。大好きな人が他の人に囁く愛の言葉を。
#ほろ苦い初恋
#それぞれにハッピーエンド
特にざまぁなどはありません。
小さく淡い恋の、始まりと終わりを描きました。完結いたします。
[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します
シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。
両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。
その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。
いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた
奏千歌
恋愛
[ディエム家の双子姉妹]
どうして、こんな事になってしまったのか。
妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。
藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」
憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。
彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。
すごく幸せでした……あの日までは。
結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。
それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。
そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった……
もう耐える事は出来ません。
旦那様、私はあなたのせいで死にます。
だから、後悔しながら生きてください。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全15話で完結になります。
この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。
感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。
たくさんの感想ありがとうございます。
次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。
このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。
良かったら読んでください。
婚約者だと思っていた人に「俺が望んだことじゃない」と言われました。大好きだから、解放してあげようと思います
kieiku
恋愛
サリは商会の一人娘で、ジークと結婚して商会を継ぐと信じて頑張っていた。
でも近ごろのジークは非協力的で、結婚について聞いたら「俺が望んだことじゃない」と言われてしまった。
サリはたくさん泣いたあとで、ジークをずっと付き合わせてしまったことを反省し、解放してあげることにした。
ひとりで商会を継ぐことを決めたサリだったが、新たな申し出が……
[完結]思い出せませんので
シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」
父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。
同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。
直接会って訳を聞かねば
注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。
男性視点
四話完結済み。毎日、一話更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる