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しおりを挟むラフォーレ侯爵夫妻が領地へと向かった後、フォルティアはここ数か月間、声をかけることを戸惑っていた相手と話すことを決めた。
「ドリューズ様、少しお時間いいかしら?」
「ええ、もちろんです。」
このドリューズという男、兄に頼んだ事務官として派遣してもらった中にいた。
最初は見間違いかと思った。
でも、本人だった。
彼は、フォルティアの元婚約者、だ。
フォルティアは最初、ドリューズの兄、ユーシスの婚約者になるはずだった。
しかし、ユーシスは隣国に留学中、恋に落ちてしまい、向こうで彼女と結婚すると言い出した。
それにより、弟のドリューズと婚約が結ばれたのだ。
1歳年上のドリューズ。
彼は次男のため、将来は王城で文官として働くつもりでいた。
それが、兄の代わりに伯爵家を継ぐことになったのだ。
フォルティアとの仲は、ほどほどといった感じ。
彼は少し照れ屋なようで、あまり口を開かなかった。女性慣れしていないようだった。
フォルティアが学園を卒業したら結婚するはずだった。
それなのに、ドリューズの兄、ユーシスが妻と子を連れて戻ったのだ。
『跡継ぎを放棄すると言った覚えはない』
ユーシスはそう主張し、隣国の侯爵家の娘であるユーシスの妻への配慮もあり、ユーシスが跡継ぎに戻ったのだ。
実際は、隣国に居づらくなったということらしい。
ユーシスの妻には婚約者がいたが仲が良くなく、ユーシスへの心変わりで婚約解消になった。
実際は浮気で婚約破棄になってもよかったところを婚約解消としてくれたにも関わらず、元婚約者の嫌なところを吹聴して貶め、自分とユーシスの結婚を祝福してもらおうとしたらしい。
妻の実家に間借りをして暮らしていた二人は社交界から爪弾きにされ、娘可愛さに手元に置いておくつもりだった実家からも自立しろと言われてこの国に戻ることを思いついたということだった。
ちなみにこのことは、ドリューズとの婚約解消に腹を立てた父が調べて知った。
その後、ユーシスが跡継ぎになったにも関わらず、ドリューズが執務をさせられているということを聞き、不憫に思う中、フォルティアはディカルドに嫁ぐことになったのだ。
それなのに、なぜかドリューズがラフォーレ侯爵家で働いている。
それも、コールタッド伯爵家からの派遣で。
父か兄に経緯を確認しようと思っていたところ、妊娠が発覚し、フォルティアはドリューズと顔を合わせることが気まずく感じてしまったのだ。
しかも、妊娠発覚前は会話もなかったディカルドが、妊娠後はフォルティアを気遣うようになっていた。
元婚約者に夫と仲睦まじく過ごしているような姿を見られて、何とも表現のし難い感情をフォルティアは味わいながら過ごしていた。
ディカルドが亡くなり、侯爵夫妻からお腹の子のことを詰られている姿も見られていた。
何度も気遣うような視線を向けられていた。
侯爵夫妻が領地へと向かった今、今後、心穏やかに過ごすためには、ドリューズがなぜここにいるのかを確認しておくことがフォルティアの心の安定につながるのだ。
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