夫の子ではないけれど、夫の子として育てます。

しゃーりん

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白い結婚を証明して2年後に離婚すると言ったフォルティアに、侍女レニは確認した。


「それでは、コールタッド伯爵様に今の状況をお知らせして援助を打ち切られるのですか?」

「いいえ、今、それを知らせると侯爵夫妻はディカルド様に私の純潔を奪うようにと指示されるわ。
亡くなった婚約者だけを愛したいから私を抱きたくないと言われたのに、援助が必要だから嫌々相手をされるなんて、それなら昨夜なにも聞かされないままさっさと済ませておいた方がマシだった。
だから、父に知らせるのは離婚する少し前にするわ。それまでは援助をしてもらう。」


2年間の援助で領地の立て直しや道筋をつけて、その後はコールタッド家に少しずつ返済すればいい。
国王陛下が危惧したラフォーレ侯爵領の見通しが明るくなれば、離婚しても問題はないはず。


「ですが、伯爵家にお戻りになられて離婚裁判をなさった方がよろしいのではないでしょうか?」

「そうだけど、領民が気の毒でしょう?もうすでに侯爵領に人員が入っているのに引き上げさせるの?
領地の方も2年でだいぶ立て直しができるんじゃないかしら?侯爵家が人員を続けて雇う気があるのなら、伯爵家に戻らずに残るのも自由だわ。」

「……コールタッド伯爵家の給金と同じ額を侯爵家が出せるとは思えませんが。」
 
「そうかもね。でも、やりがいを感じて残る人もいるかもしれないわ。あるいは見通しを立てて指示してから戻ってくれてもいいし。」

「困るのは領民ですからね。それは有り難いことでしょうが、フォルティア様の2年が惜しまれます。」

「仕方ないわ。私もまさか、ディカルド様がこの結婚の意味を知らないなんて思っていなかったもの。」


援助することで繋がった政略結婚であっても、いや、援助を受ける側であるからこそ、ディカルドはフォルティアを気遣い仲良くなろうと努力するに違いないと思っていた。

邪険に扱い、冷遇するなんてことはあり得ないだろう。そう自惚れていた。

そんな気遣いから始まったとしても、お互いを知って好意を持つことができれば仲の良い夫婦になれるのではないか、と。

婚約から結婚までの半年、フォルティアがこの結婚を前向きに考えていたというのに、ディカルドはフォルティアを妻にする気がなかったのだ。

自分の妻は、亡くなった婚約者リーリエだけ。
今後、人前で妻として紹介されたりエスコートされる時にも、ディカルドはフォルティアではなくリーリエが隣にいるものと思って接するのだろう。顔を見なければ思い込むことなど簡単だから。

フォルティアはリーリエのことを知らないが、ディカルドがフォルティアと目を合わせないのは目の前にいるのがリーリエではないと思いたくないからだとようやく気づいた。

夫に愛されず、関心も持たれず、子供もつくらず、ただただ援助のためだけに必要とされる嫁。

コールタッド伯爵家とフォルティアには何の利もない結婚。

このまま実家に出戻って離婚裁判をしてもいいのだが、こうして侯爵家に一度入った身としては領民のために2年を犠牲にしようと決心したのだ。 



……この決心を後悔する羽目になるとはこの時は思いもしていなかったが。




 
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