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私は今、何故かまだ視線を感じている。

えーっと。事件は終わったもの。
もう調査の人は誰も私を監視してないよね? 

なのに、何でディート様はまだ私を見張っているのかしら?

見張ってるというより、何か訴えている視線な気もするわ。

よし。目線を合わせたら何かわかるかも。と思って、ディート様の視線に合わせて見たけれど……

見つめ合ってしまった。なので、首を傾げてみると頷かれた。

無理。無理だわ。意思の疎通が出来ない。サッパリわからない。

視線を外して思わず頭を抱えると、微かな笑い声が聞こえてきた。

出所はクラウド殿下。ディート様の横で必死に笑いを抑えようとしてるみたい。

見てた?見てたのよね。私とディート様の意味不明な視線の会話。

わかったのなら通訳してくれないかしら。っていうか直接ディート様に聞けばいいんだけど、今はもうクラスメイトという接点しかないので、人前では声をかけられないのよね。前からそうだけど。



というのが、昼休みにあった出来事。



授業が終わって、帰ろうとした時にディート様に声をかけられた。

「ちょっと付き合って。前の応接室まで。」
 
そう言って先に出たディート様。残された私。

周りは何を言ったかは聞こえなかったけど、私に何か言ったことには気づいた。

驚愕の顔を向けられているうちに、教室から抜け出した。
危なかった。何を言われたのか問い詰められそうだった。

明日が怖い……… 



それにしても、また何か報告があるのかな?
バンズ家の細かいその後のことは、父に話してくれたらいいんだけど。

学園の生徒の中でも地位が高い2人に呼び出されてるのが私って自分でも不思議。

応接室の近くに誰もいないことを確認して、ノックして入るとディート様がいた。
クラウド殿下はまだかな?


ソファに座るように言われて座った。2人きりって告白以来だなぁ。なんて呑気に考えてて。


「ヴィッテ嬢、先日の君の告白に対する私の返事をなかったことにしたい。」

ん?
 
「君の付き合ってほしいという言葉に応えたい。婚約を前提に私と付き合ってほしい。」

はいぃ?

「ちょっと待ってください?
 あの告白は諦めるための区切りで、受け入れてもらうことが目的ではないと言いましたよね?」

あれ?言わなかったっけ?

「だけど、受け入れても構わないだろ?」

「そうなんですけど?あれ?
 ……それに私、伯爵令嬢です。婚約を前提にしたらその後ろは結婚じゃないですか。
 ご両親が納得されないと思います。」

「いや、両親は伯爵令嬢でも構わないと言っていた。」

まさかの確認済だった。

「あの告白の後、笑顔の理由が知りたかったのは本当だけど、それくらいなら見てなくてもよかった。
 なのに、ウンザリした顔や疲れた顔の理由を知りたくなった。
 バンズ家のことも調査チームに任せればいいのに、クラウドから情報を聞いてた。
 囮に反対したり、君が無事なのを自分で確認するために現場まで行ったり。
 結局、私は君が気になって仕方がなかったということがわかった。
 君に新たな婚約者ができると思うと嫌だった。君の思いが私から離れるのも嫌だった。
 だったら、そばにいてもらおうと思ったんだ。」

あぁ、この人は自分の思いに不器用なんだ。
ひょっとすると、愛情ではなくて単なる所有欲なのかもしれない。
自分のところにあったものが違うところに行くかもしれない。それを逃がしたくない。

その勘違いを愛情へと向けさせてもいいのかな?

「振られたから諦めるつもりだったのに……」

本当にいいのかな。

「まだ諦めてなかったのなら、いや、諦めたとしたら、また好きにさせて見せる。
 だから、そばにいてくれないか?」

私に断れるわけないじゃない。

「ディート様も私のそばにいたら、好きになってくれますか?」

ディート様は目を見開いた。驚いた?

「もちろん。気持ちを言葉にするのは苦手だけど、君からの好意だけを受け取るつもりはない。
 お互い、嫌なところも目にしたり意見が合わないこともあるだろう。
 だけど、それを擦り合わせていい形に持っていける関係になりたい。」

うん。真面目だ。だけど嬉しい。

「はい。よろしくお願いします。」

笑顔で言うと、見たことがないような笑顔が返された。カッコイイ……


 

 


 
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