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しおりを挟むクラウドが調べると、バンズ侯爵家次男ギガルドとパルテ伯爵家長女ヴィッテの婚約契約書は提出されていたそうだ。
日付を聞くと、ディートが告白された3日後のことだった。
契約内容は記載事項がほとんどなかったらしい。
おそらく、受理されないことばかりを侯爵側が並べ立てて弁護士が却下したのだろうということだ。
「明日、婚約契約書を作成した弁護士に約束を取り付けている。どんな話が出てくるかな?」
「話してくれるのか?」
「守秘義務は契約内容だからね。記載できなかったことは話しても罪にはならない。
それでも普通だったらなかなか話さないだろけど、私とディートが聞くんだよ?」
「クラウドが動いて問題にならないか?」
「父には言ってある。
バンズ侯爵家の落ちぶれをどう処理するか、弁護士の話の内容も検討に値するってこと。」
つまり、内容次第では降爵か取り潰しが早まる可能性があるということか。
バンズ侯爵家がこのまま生き残るには、パルテ伯爵家の莫大な援助があるかどうかにかかっている。
恥ずかしくもなく格下から援助を受けるかどうか。
もしこれが、事業の提携による婚約や恋愛結婚による援助であればよくあること。
立ち直ったら恥ずかしい思いをしたことなんて笑い話にできる。
明確な理由が見当たらない援助があれば、脅しか善意になる。
少し前までは、脅して援助してもらっておいて立ち直ったら嫁を捨てる場合もあったので、婚約契約に厳しくなったのだ。
善意ならば、よっぽどの恩があったり人柄が尊敬できる者に見返りを求めない援助になる。
弁護士の話が楽しみだ。
翌日に訪れた弁護士は、受理されたはずの婚約契約書についてどんな問題が発生したのか疑問に思っていた。
というのも、あまりに記載事項のない契約書であったから。
「お尋ねになりたいのは記載事項に記されなかった内容ということですか?」
第二王子殿下と公爵令息を前に弁護士は緊張のあまり喉がカラカラになっていたが、言われた言葉になるほどと思った。
あの侯爵はヤバかった。『金をくれー!』といった婚約だったから。
弁護士は侯爵が言った契約時の問題発言を洗いざらい説明した。
まず、自分の息子を伯爵家の跡継ぎにしろと言ったこと。
息子を婿に出すと言っているのに持参金をよこせと言ったこと。
毎年援助金をよこせと言ったこと。
全部却下すると、婿に出すのはやめて嫁に貰うので持参金をよこせ。ただし、住むのは伯爵家。
という、全く理解不能で却下した内容を伝えた。
ついでに、援助金はお互いの収支に記載が必要だとも伝えると、怒りが爆発しそうだったことも。
クラウドとディートは、収支に記載されない小遣いを学園の裏手で貰っていたのだと気づいた。
それにしても……侯爵は貴族法を知らないのか?バカすぎる。
よく侯爵になれたな。
長男だから継ぐのが当たり前だと思っていたんだろうが。
毎年のように多額の援助を貰えると思って婚約を望んだのに、新しい婚約契約の禁止事項に当てはまり却下されるとは笑える。
バカだから、次男を伯爵家に入れることばかり考えて却下されても、長男の嫁にして持参金を手に入れる方向に切り替えられなかったんだな。
そもそも持参金は侯爵家が使っていいものではないのだけれどなぁ……
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