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しおりを挟む侯爵家と婚約を結ぶ日、初めて会った令息ギガルドは一つ上の学年だった。
一目見た感想は、機嫌悪そう?粗野な感じ?
トラブルの予感しかしなかった。
うちには弟がいる。なので、伯爵家の跡継ぎは変わらない。
これは、貴族法で決まっている。
パルテ伯爵家の場合は、弟、私、叔父、従弟の順だ。
なので、侯爵様が脅そうとしてもギガルドに爵位はいかない。
そんな常識もないの?
ギガルドが伯爵家に来ても、単に私の婿というだけで権限的にはあまりない。
仕事ができて誰もが認める男だったら、多少の権限はできるかもしれないけど何十年後?
お金や重要書類、印章などを絶対にギガルドの目の届かないところに置く必要がある。
そして、またまた非常識なことを言われた。
持参金?私、侯爵家に嫁ぎませんよ???
何なら、受け取る側じゃない??
毎年侯爵家に援助金?
同席してもらった弁護士に、この場合の常識的な取り決めを説明してもらった。
婚約を望んだのは侯爵家。
息子を婿に出すなら、跡継ぎではない娘なので持参金は低額でよい。払うのは侯爵家。
事業に絡んだ婚約でもないので、援助金は契約に織り込む要素がない。
なので、善意に縋るしかない。
が、伯爵家が望んだ婚約ではないので金銭を要求すると上位貴族による金を巻き上げる圧力になる。
つまり、侯爵家側の要求は何一つ契約として織り込めない。そう説明された。
悔しそうな侯爵様が絞り出した案は、私がギガルドに嫁ぐ。
なので、持参金を伯爵家が出せというのだ。
それで住むところが伯爵家???
いや、これもおかしい。
そもそも、持参金を自分たちが使おうと思っていること自体がおかしい。
婚約の時点で持参金を渡すわけでもないよ?
伯爵家に住むならば、持参金を渡す意味ある?
それに、もし伯爵家の仕事にギガルドと私が関わるのなら、本邸には住まないよ?
単なる従業員扱いにしてもらうよ?
「ごちゃごちゃうるさい。黙って明記すればいい。」
「いえ無理ですよ。受理されません。」
無茶を言う侯爵様を弁護士が撥ね退ける。
結局、侯爵様の思惑は何一つ婚約契約書に明記されなかった。
それなのに婚約することになった。別の人を選ぶことをお勧めしたかったわ……
契約書を持った弁護士が帰り際、侯爵様に一言告げた。
「善意の援助でも、伯爵家の収支には記載されますのでご注意を。
もちろん、侯爵家の収支にも記載が必要ですよ?」
つまり、格下から格上への援助金が提出先に周知されるかもしれない。
金額によっては、侯爵家を維持する財力がないとみなされ、降爵もあり得た。
災害などで損害があった場合はある程度は考慮されるが。
真っ赤になった憤怒な顔で睨みつけても気にせずに弁護士は出て行った。
「裏金を作れ。」
ボソッと侯爵様が言った言葉に、父が答えた。
「無理です。金の流れが明確になるように何人ものチェックが入ります。」
「それを何とかするんだ!でないと、取引先を潰すぞ。」
「そうすれば、もっとお金は作れなくなりますが?」
ギリギリと歯ぎしりが聞こえそうなほど、侯爵様は噛みしめて言った。
「援助じゃなくて小遣いとして渡せ!」
反論を聞きたくなかったのか、侯爵様は部屋を出て行った。
「小遣いよろしくー。」
そう言って、ギガルドも出て行った。
私がお小遣いをあげるのかしら?
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