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しおりを挟むマレック侯爵と義兄上のクラークが、アイリーンがここに来くる前日に手紙を受け取ってからのことを教えてくれた。
知らない差出人の手紙を受け取ったアイリーンがその手紙を読むと、ジョルジュが娼館に出入りしていること、そして翌日の夜にも行くと聞いてしまったので知らせようと思ったと書いてあった。
時間と場所まで記してあり、『彼はあなたに相応しくない』『善意の者より』とあった。
アイリーンはマレック家からついてきてくれた侍女ローレンに手紙を見せた。「どう思う?」と。
ローレンは、明日のことはわからないけれど娼館に何度も行っているような文面は間違いだと言った。
アイリーンもそう思った。
それに結婚してから2か月半少し経つが娼館に行けるような外出はしていないし、万が一不貞をしたとするとジョルジュはアイリーンの目を直視できなくなるような男だと思っている。
まぁ、確かに数日前から少しだけ違和感は感じているけれど、それは不貞とは違うはず。
何か、聞きたいけどどうしようかな。みたいな感じ。
そのうち問い質すつもりだけど。
明日の夜、出かけるならばそう告げるはず。そう思っていると、翌朝ジョルジュが言った。
『今日の夜はマーキュリーと約束があるから遅くなる』と。
アイリーンも用意していた言葉、『実家に用があるから泊まる』と告げた。
迎えに来た実家の馬車に乗り、一度、実家へと行った。
『ジョルジュの不貞疑惑を確認しに行ってくる』
アイリーンはそう言って、夜に目立たない馬車と護衛と侍女を連れて再び出かけた。変装して。
手紙に書かれていた場所と時間にジョルジュは現れた。少ししてマーキュリーも現れた。
『マーキュリーと約束がある』これは嘘ではなかった。
しかし、2人の跡をつけると、確かに高級娼館へと入っていった。
少し待ったが出てこない。
娼館には普通はどれくらいいるものなのか護衛に聞くと、一晩でなければ2時間ほどだろうとのことだったので、喫茶店で時間を潰してから1時間と少し経った後に戻ると丁度ジョルジュが出てくるところだったという。
ジョルジュの表情はスッキリサッパリというより、不機嫌っぽく見えた。
護衛の一人にジョルジュがこのまま屋敷に戻るかを確認してもらい、アイリーンは実家へと戻った。
ジョルジュは真っ直ぐ屋敷に帰ったとのことだったが、その晩はいろいろとモヤモヤとしながら寝た。
翌朝、アイリーンは父と母、兄と義姉に昨晩見たことを話した。
誰もが絶対に嫌がらせの手紙だと思っていたのに、本当に娼館に出入りしていたと知って驚いた。
『離婚だ、離婚』『使い物にならないようにしてやる』『ロックス家を潰すか』
などと物騒な言葉もあったが、アイリーンは複雑だった。
ジョルジュを信じている。だが、娼館に出入りした姿を見てしまった。
会えば、娼婦を抱いたかどうかはわかる。だけど、会いたくない。
娼婦を抱いていないと信じてるし、信じたいのにモヤモヤする。
そう告げると、『しばらくここにいて困らせてやれ』ということになった。
しかし、その翌日からモヤモヤが吐き気を伴い、食べられなくなる。
『意外と精神的ダメージを受けている』
そういう結論になった。
数日経っても吐き気は治まらない。
腹が立つので、離婚届をジョルジュに送り、反応を見ることにした。
もちろん、ジョルジュは受け入れず、兄と少し話をした。
簡単に聞いた話では、アイリーンがジョルジュとの閨事に満足していないと人伝に聞いたジョルジュが娼館の覗き部屋で他の男がどうやって女性を抱いているのかを観察していた。ということだった。
簡潔すぎて兄の話はよくわからなかったが、ジョルジュが娼婦には触れていないと知り、安堵と共に気を失った。
かかりつけの医師が診察したところ、妊娠が発覚。吐き気はつわりだった。
だが、軽く出血もあり、絶対安静となった。
安定期に入る頃になっても吐き気が治まらず、結局5か月ほど寝込んだままだったという。
吐き気が治まり食欲が戻ると、やけ食いのように食べ、寝込んでいたために運動不足で出産に耐えられないかもしれないと言われると庭を歩き回って体力をつける日々だったという。
少し早産で子供は小さいが、流産の危機もあったり出産に耐えられない体力と言われていたことを思うと十分に立派な出産だったという。
ジョルジュはボロボロと涙を流しながら聞いていた。
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