上 下
15 / 18

15.

しおりを挟む
 
 
ところが、マレック侯爵に報告を終えたわずか2日後の夜遅く、マレック侯爵の遣いの者が来て、大至急侯爵家まで来るようにと呼び出された。


「どういうことだ?何があった?アイリーンの体調が悪いのか?」

「申し訳ございません。私は遣いの者ですので詳しいことまではわかりかねます。」


進む馬車が遅く感じる。馬で駆ければよかったと後悔したが、遠くはないためにやがて着いた。

屋敷の入口には義兄上が待っていた。


「義兄上、アイリーンに何があったのですか?」

「……今から連れていく。覚悟しろよ。」


覚悟……まさかアイリーンは良くなっていなかったのか?だから会えなかった?
もしそうならば、だからこそ会いたかった。
ずっと側にいて看病したかった。

アイリーンの部屋ではなく、違う部屋の前に連れて来られたが、入れてもらえない。

中からはうめき声のようなものが聞こえ、驚いて無理やり中に入ろうとした時、アイリーンの怒鳴り声が聞こえた。


「ジョルジュのばかぁーーーーー。」


…………へ?ば、ばかぁ?


「ふぎゃぁふぎゃぁふぎゃぁふぎゃぁ……」


…………へ?猫?


「男の子ですよー。おめでとうございます。」


…………へ?男の子?ま、まさか…………アイリーンが今、産んだ?ぼ、僕の子?

言葉にならず、扉を指差したまま義兄上の方を向くと、マレック侯爵夫妻もいた。


「おめでとう、跡継ぎだな。お前も父親だ。」

「アイリーンは妊娠してた?」

「そういうことだ。ま、それについては後でゆっくり話そう。
 それにしてもお前が来た途端に産まれるなんてな。
 オロオロされると鬱陶しいからギリギリまで知らせなかったんだけど、驚きだよ。」


アイリーンと子供に会えるようになるまで、僕は扉の前で待ち続けた。

 
 
やがて、会える許可が出て、僕はアイリーンの元へと駆け寄った。


「あぁ、アイリーン、アイリーン、会いたかった。」


抱きしめようとしたが、アイリーンの両手は何かを持っていた。
何か……じゃない。僕たちの子供だ。
近くに腰かけてアイリーンの額に口づけをし、赤ん坊にも同じようにした。


「アイリーン、知らなくてゴメン。気づかなくてゴメン。産んでくれてありがとう。」

「男の子よ。髪の色はあなたと同じね。瞳の色はどうかしらね?」

「誰に似ててもキレイだよ。……小さいなぁ。アイリーンのお腹にいたんだよな。」

「……知らせなくてごめんね。いろいろと不安定だったのよ。」

「いや、僕が悪いから。義父上から報告は聞いたと思うけど、まだ怒ってる?」

「……どうかしら。この子を産む時に散々あなたの悪口を言っていたの。
 この子が出ると同時になんかスッキリした感じがするわ。」

「最後の『ばか』というのだけはしっかり聞こえた。」

「ふふ。じゃあ、怒りもその言葉で最後にするわ。
 これからこの子の名前を決めて、新しい生活が始まるんだもの。」

「名前……そうだね。何か候補はある?」

「うちの両親と兄夫婦、あなたの両親とでいくつか考えているわ。もちろん私もね。」

「そうか。じゃあ、その中から……え?あなたの両親って僕の両親のこと?」

「そうよ。」

「……は?両親はアイリーンの妊娠を知っていた?」

「ええ、もちろん。嫁が長い間実家に帰っているんですもの。
 ちゃんとした説明が必要でしょう?」

「知らなかった。僕だけ仲間外れ?」

「ごめんね。最初はちょっとした罰のつもりだったんだけどね。
 不安定な時期が長くてあなたが毎日悲壮な顔をしてやってきたら体調が悪化しそうで、ね。」


そう言われてしまうと、確かに自分でも想像できた。……非常に鬱陶しい自分を。


「あなたは自分の仕事と調査に忙しかったでしょ?
 解決して落ち着いたら話そうと思ってたんだけど、予定よりも早く出てきちゃったから。」

「アイリーンと子供が無事なら罰を受けたことなんて気にしないよ。」


その後、アイリーンの手から子供を手渡され、恐る恐る抱いてみた。

小さくて軽いけど、守っていく重い命。父親としてしっかりしなければいけないと思った。

 



 
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します

シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。 両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。 その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

[完結]貴方なんか、要りません

シマ
恋愛
私、ロゼッタ・チャールストン15歳には婚約者がいる。 バカで女にだらしなくて、ギャンブル好きのクズだ。公爵家当主に土下座する勢いで頼まれた婚約だったから断われなかった。 だから、条件を付けて学園を卒業するまでに、全てクリアする事を約束した筈なのに…… 一つもクリア出来ない貴方なんか要りません。絶対に婚約破棄します。

【完結】私の婚約者は妹のおさがりです

葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」 サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。 ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。 そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……? 妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。 「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」 リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。 小説家になろう様でも別名義にて連載しています。 ※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)

[完結]要らないと言ったから

シマ
恋愛
要らないと言ったから捨てました 私の全てを 若干ホラー

(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。 なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと? 婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。 ※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。 ※ゆるふわ設定のご都合主義です。 ※元サヤはありません。

処理中です...