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しおりを挟むマーキュリーがお茶会の参加者リストを手に入れる可能性は低いかもしれないが、それでもよかった。
僕が確認したいことは確認できたから。
マーキュリーは、『黒』だ。
噂の入手先が友人たちだと言い、確認すると言ったら喫茶店かどこかで近くの席から聞こえてきたと言う。
男か女かの質問にも言い淀み、挙句、お茶会の参加者の女性とまで言った。
何ともまぁ、その場しのぎの言い訳を並べたが、嘘であることは明らかだった。
噂を流した令嬢を突き止めると言うと、噂はそんなに広がっていないと誤魔化すように言う。
事実、噂など広まっていない。
僕はマーキュリーから聞いただけだ。友人にも確認したが誰も知らなかった。
そもそも、アイリーンに確認すれば言っていないことなどすぐにバレるのだ。
ではなぜそんな噂があるようなことをマーキュリーは言ったのか。
それは娼館に僕を連れていき、アイリーンにその姿を見せるためだ。
僕がアイリーン以外の女性に性的に触れると離婚するということをマーキュリーは知っている。
それなのに娼婦を勧めたことにも違和感があった。
そして次は覗き部屋だ。何とか思いついた、アイリーンが疑いを持つ可能性のある案だった。
僕が娼婦を抱いていないとしても、アイリーンにはその事実はわからない。
僕が娼館に行ったという事実でアイリーンは約束を破ったとして、僕と離婚することになるだろうとマーキュリーは考えたはずだ。
まさか、僕とアイリーンがすぐに離婚せず、僕が噂を流した犯人探しまでするとは思っていなかったために、マーキュリーは細かい設定まで考えていなかったのだ。
ではなぜマーキュリーが僕とアイリーンを離婚させようというサドルデン伯爵令嬢の考えに乗ったのか。
わからなかったマーキュリーの目的が、よくよく考えて分かった気がした。
マーキュリーは、アイリーンが欲しくなったんだ。
サドルデン伯爵令嬢が僕と結婚できなくてもマーキュリーはどうでもいい。
彼がいつアイリーンを好きになったのかはわからないが、娼館の娼婦の雰囲気がアイリーンに似ていたことからも、彼が欲しているのはアイリーンなのだと思ったのだ。
マーキュリーはあの娼婦を抱きながら、アイリーンを抱いている気分になっているのだろう。
毎回彼女を指名しているのかもしれない。
それと……最後のあの呆然としたマーキュリーの様子を見ると、あの娼館の客の男もマーキュリーだったのかもしれないと思った。
背格好も似ているし、客の男の話なのにマーキュリーが衝撃を受けていた。
いつもの彼なら、ニヤニヤ笑って面白がるような話だと思うのに。
話している時は気づいていなかったが、今日の会話を冷静に思い返した今、そう気づいてしまった。
話す前に気づいていたなら、あそこまであの客の男を貶すようなことを言わなかったのに……
そのことについてだけは申し訳なく思ったが、まぁ、覗き部屋で勉強してくれ。
この件に片がついたら、マーキュリーとの付き合いも終わりだな。
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