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しおりを挟む少し待っていると、隣の部屋に男と女の2人が入ってきた。
男のほうは目元口元以外は顔を隠している。髪色もわからない。
性技に自信のある男と言っていたから男娼かと思っていたが、どうやら普通に客のようだった。
高級娼館に来る客なら貴族か裕福な商人がほとんどだろう。
身元を知られたくはないが、行為を人に見られてもいい。あるいは見られたい。
そういう男なのだろうと思った。
男はガウンを着ていた。この中のどこかでシャワーを浴びてきたようだ。
ガウンを脱いで下着姿になると、体の引き締まり具合から意外にも若い男だと感じた。
女性、娼婦の方は、小柄で可愛らしい感じの女性だった。
どことなくアイリーンを彷彿させるような……マーキュリーが彼女を指定したのだろうか?
そうだとしたら、少し腹が立った。
まるでアイリーンが別の男に抱かれているように見せる意図がある気がして。
だが、彼女はアイリーンじゃない。
男に媚びるような目つきが、少しでも雰囲気が似ていると感じさせた気持ちを霧散させた。
覗き穴から2人の絡みを見ていく。
僕が見ていたのは、男の動きとそれに対する女性の表情。
結果、はっきり言って、この男は本当に性技に自信のある男なのかと疑ってしまった。
男の独りよがりに思えたからだ。
女性の表情は、あれこそまさに『演技』だったのではないか?
時々顔にでる不満や苦痛を無理やり喘ぎ声で誤魔化していたように見えたのだが?
しかも、1回が意外と早く終わった。こんなものなのか?
ひょっとすると、僕は長いのか?それがアイリーンの不満なのか?
だが、アイリーンの中に入っている時間は少しでも長くいたいと思ってしまう。
アイリーンの表情を伺っている僕は不満や苦痛を見たことはないが……
長いのが不満なのであれば、それは善処できるかもしれない。
ただ、確実に1回で終われないとは思うが。
男が次は後ろから……と2回目を始めようとしているが、この男から得るものはないと感じて部屋を出た。
屋敷に戻ると、もちろんアイリーンはいない。実家に泊まりなのだ。
娼館で2人の絡みを見ても、全く興奮はしなかった。観察していただけだから。
ただ、無性にアイリーンを抱きしめて眠りたかった。
一人寝は寂しい。そばに温かい体があるのが当たり前になってしまった。
明日、アイリーンが返ってくるのが待ち遠しいと思いながら眠りについた。
次の日の夜、まだ帰らないアイリーンを心配していると、今日も実家に泊まると連絡が来た。
そしてその次の日から、迎えに行く度に追い返されることになる。
『合わせられない。帰ってくれ』
どういうことだ?一体何があった?
彼らは僕に怒っているように思える。
念のために屋敷内でアイリーンが何か不満に思うことや腹を立てたような出来事がなかったかを聞いてもらった。
両親にも聞いてみたが、心当たりがないということだった。
ただ、アイリーンが実家に帰る前の日に、アイリーン宛に手紙が届いたという。
茶会の誘いの類ではなく、友人と思われる人物からの手紙。家名には心当たりはなかったようだ。
貴族ではない者か偽名なのかもしれない。
そうして届いたのが離婚届だ。
不審な手紙も気になったが、僕が一番気になったのはアノコト。
アノコトとはつまり、アイリーンが僕との閨事に満足しておらず演技をしているらしいということ。
アイリーンしか知らない僕の愛撫は彼女の満足いくものではないかもしれない。
だが、まだまだこれからの伸びしろに期待してくれてもいいのではないのか?
そして、もう一つ思い当たったのが閨事の時間が長いことが不満なのではないかということ。
これも耐えずに早く放てば、問題はないと思うんだ。
アイリーンのためならどんな努力もする。
そう思いながら離婚届を握りしめてマレット侯爵家へと向かったことまで書き記した。
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