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しおりを挟むマーキュリーと会った2日後、今から10日前のことだった。
またマーキュリーに呼び出されたので、アイリーンの件が勘違いだったと言ってくるのではないかと思っていた。
だが、マーキュリーが言ったのはアイリーンの話ではなかった。
「ジョルジュ、2日後に予約が取れた。お前の希望通りのところへ連れて行ってやるよ。」
「……何の話だ?」
「娼館だよ。お前、言ったじゃないか。
女に触れて教わるより男側がどう触れてるか知って自分と比較したいって。」
「……あぁ、そんな感じのことは言ったけど、実際に見る気はなかった。」
「今更そんなこと言うなよ。お前のために予約取ったんだから。
娼館にはな、覗き部屋ってあるんだ。
覗きたい人や覗かれたい人が利用する部屋があるんだ。
いきなり行っても覗かれたい男がその部屋で娼婦を抱いているとは限らない。
だから、確実に覗けるようにわざわざ予約したんだ。
男はそこそこ性技に自信がある男で、娼婦はまだ経験が多くない女だ。
慣れてない女を男がどう悦ばせるか、お前にピッタリだろ?
2日後の夜8時にココに来い。娼館まで案内してやるから。」
そう言って紙切れを渡してマーキュリーは去っていったんだ。
つまり、ここでの会話を誰かに聞かれていたということだ。
そしてその善意か悪意だかわからない者が僕が娼館に行く日時をアイリーンに知らせたことになる。
そのことはこの時点で僕はもちろん知らなかった。
わざわざ予約まで取ってくれたのに断るのも申し訳なく思い、確かに他人との違いに興味もあったので悩んだ末に誘いを受けることにした。
それから2日後、今から8日前の朝、アイリーンに言った。
「今日の夜はマーキュリーと約束があるから遅くなる。」
「そうなの?実は私も実家に用があるの。泊まってきてもいいかしら。」
「ああ。馬車と護衛をつけるよ。」
「いえ、いいわ。実家に泊まるから御者も護衛も実家に頼むことにする。
行きたいところもあるから。」
「そうか。気をつけてな。」
「ええ、ありがとう。」
その後、アイリーンは実家に連絡を入れ、午後に迎えに来た馬車に専属侍女と乗り込んで実家のマレック侯爵家の護衛と共に出ていくのを僕は見送った。
それが、僕がアイリーンを見た最後だ。それから会えていない。
その夜、マーキュリーと待ち合わせした場所を訪れると少ししてから彼は現れた。
「ちゃんと来たな。こっちだ。」
案内された娼館はおそらくそこそこ高級の部類に入るのではないだろうか。
マーキュリーは伯爵令息だが、その中で裕福な家柄でもある。
怪しげなところではなく高位貴族向けの娼館をちゃんと利用しているんだなと思った。
マーキュリーは建物の中に入って慣れた感じで従業員と話をし、僕にその女性についていくように言った。
「マーキュリーは一緒じゃないのか?」
「俺?まさか。俺は俺で楽しむよ。」
そう言って、彼は娼館に来る者の本来の目的である娼婦を抱きに行ったようだった。
僕が案内された部屋は、壁に何カ所か穴が開いており隣の部屋が見えるようになっていた。
一人だけでなく数人でも覗けるようになっているようだ。
隣の部屋に誰かが現れるのを待とうと座ると、案内してきた女性が側に寄ってきた。
「用が済んだら勝手に出て行っていいんだろう?君はもう戻っていいよ。」
「あら。覗かれる方は自分も興奮なさるわ。その後に娼婦を抱かれる方がほとんど。
それを含めてのお代ですわよ?
覗かれてる最中にお慰めすることも出来ますし、お隣が終わられてからでも時間はあります。」
「いや、僕は興味がない。すまないが一人にしてくれ。」
「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ。」
女性が出て行き、一人になった。
そしてふと思った。
覗いた後に娼婦を抱くと、隣から覗かれることになるのではないか?と。
しかし、よく見ると壁の端にカーテンがあった。
なるほど。これを引けば向こうからは覗けない。
だが、それに気づかずに娼婦を抱き、コッソリと覗かれていることもあるのではないか、と思った。
覗いているはずが覗かれている。とんでもない場所だなと密かに苦笑した。
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