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しおりを挟む黙って話を聞いていたガレント様の父、モール公爵が言った。
「息子が大変申し訳ないことをした。
ルイーズ嬢は孫ローラの侍女として、よく頑張ってくれている。
ローラがすごく懐いていてね、毎日楽しそうだと報告を受けている。
失礼だが、ルイーズ嬢に縁談の話はあるのだろうか。
もしあったとしたならば、それをダメにしてしまう出来事なのだが。」
「……話自体は何件もありますが、ルイーズに合うとは思えず断っています。
見合いの話を受けたものは今のところ幸いにもありませんでした。」
見合い話を受けていたとしても、純潔ではなくなったためにもう断るしかないわね。
「ルイーズ、どうする?お前は修道院なんてタイプじゃないもんな。
領地で仕事するか?
貴族・平民関係なく、純潔でなくとも結婚したいと言ってくれる相手と結婚すればいい。
王都にいるより気楽でいいだろ?」
さすがお父様。私のことをよくわかっているわ。
「そうね。では領地でお手伝いを……」
「ちょっと待ってください。伯爵もルイーズ嬢も。
ルイーズ嬢……妊娠しているかもしれませんし。」
ガレント様が妊娠と言ったので思い出した。
「あっ、先ほど医師にいただいた避妊薬を飲みたいのですが、どこに?」
イーグル侯爵が、私の勢いを止めるかのように手を出して落ち着くように言った。
「ルイーズ、君に頼みがある。
セルフィに代わって、君がガレント殿の子供を産んではくれないか。」
私は口を開けて驚いた。おそらくお父様も。そして、モール公爵もではないか。
イーグル侯爵が言うには、娘セルフィは昔から体が弱い。
なんとかローラを出産したが、心臓に負荷がかかって今はほとんど外出もできない。
もう一人子供を産むなど、不可能なのだ。
月の半分以上はベッドの上にいる。
社交もできない。
今、王家には3人の王子がいる。
そして年齢的に見合う令嬢が公爵家・侯爵家にはローラしかいない。他は男ばかり。
王家は是非ともローラを妃に欲しい。
だが、このままではローラはモール公爵家の跡継ぎになる。
王女は貴族に嫁げるが、王子は二代限りの公爵家を興し王領を賜るか、王太子の側に仕える。
つまり、王子がモール公爵家に婿入りすることはできない。
実は王家から、ガレントに第2夫人を許してはどうかと打診されたという。
モール公爵家に直接打診がいかなかったのは、やはりセルフィの気持ちと体調を考えてのことだ。
セルフィの両親から様子を見て説得してくれないか、ということだった。
公爵家・侯爵家には、妻が病弱で社交できない場合や妊娠が望めない場合に限り第2夫人が認められる。
セルフィの病弱はモール公爵家に第2夫人を迎える理由になるのだ。
公爵位にある者が毎回違う女性を連れて社交するのは愛人が何人もいるように見え、都合が悪いことから認められるようになった。
今はまだガレントは公爵じゃないので、妻を伴わなくても問題はないが。
このままでは王子たちは他国の王女を迎えるか、伯爵令嬢から選ぶしかない。
今の状況では仕方のないことだが、王子が3人もいて、自国の最高位貴族との縁を誰も結ばないとなると王族の権威や後ろ盾にも問題が生じるのだ。
かつて、他国の王女ばかり娶っていた時代があり、自国の王族のはずが自国の血が薄まりすぎて貴族や平民からも反感を買った時期があった。
それからはできる限り、自国の公爵・侯爵令嬢を王太子妃・王子妃にすることが望ましいとされた。
「セルフィには以前話をした。あの子は第2夫人を迎えることに納得している。
その上で誰を選ぶかを検討していたんだ。
正妻であるセルフィを蔑ろにせず、ローラにも娘同様に接してくれる令嬢を。
もちろん、ガレント殿が気に入る令嬢というのも重要だ。
社交も共にしてもらうつもりだからね。
その選考中だったんだ。
だが、こうなってしまえばルイーズが相応しい。そうは思わないか?」
モール公爵とゴート伯爵である父に訴えかけるようにイーグル侯爵は言った。
……私の意志は?
「なるほど。それが頭にあったからルイーズ嬢に避妊薬を飲ませていないんだな。
私はいい案だと思う。選ぶにしても伯爵令嬢になっただろう。
野心のある侯爵家の令嬢が嫁いでくるのはごめんだ。
ルイーズ嬢なら問題ない。」
モール公爵の言葉にイーグル侯爵は頷いている。お父様は……眉をひそめている。わかるわ。
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