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目が覚めると、アイシャは裸のままカインに抱き込まれていた。

昨夜、カインに抱かれたことは、それが自然のことのように思えたから。
一般的には傷の舐め合いのように思えるだろうけど、そうは思えないほど情熱的だった。


「雨、降ってるな。」

「うん。おはよう。」

「おはよう。今日はどこにも行けないな。」

「うん。」

「仕事探しも。」

「うん。」

「布団を買いにも。」

「うん。」


2人でクスクスと笑い合って、朝食を食べることにした。

同じような日を3日過ごした朝、月のものが来た。
予備が少ないため、買い物に行きたいと言うと、一緒に行くことになった。


「こっちじゃないの?」


カインは違う道を行こうとする。


「先に行きたいところがあるんだ。」


カインが連れて来たのは治療院。
どこか悪いのかと思えば、証明書を貰うためだという。
……私の月のものが来たという証明書だ。

診察を受けて証明書を貰う。それから行った場所は役所だった。
婚姻届を貰い、サインをする。
証明書と一緒に提出すると、受理された。


それから買い物して家に戻った。

部屋に入るとすぐ、私はカインに抱きついた。
カインも強く抱きしめ返してくれる。


「家族になってくれたの?」

「アイシャは1人じゃないよ。1人にしない。」

「ずっとここにいていいの?」

「もうアイシャの家でもあるよ。」

「ありがとう。」


カインはいつ私との結婚を考えてくれたのだろうか。
シードとの離婚から5日でカインと結婚した。

女性が離婚した場合、再婚するには半年待つか、前の夫の子を妊娠していない証明、つまり月のものが来た証明書があればすぐに再婚できるのだ。


この日から、私たちはどこに行くにも一緒だった。
仕事は家でできる内職をして、1人で働きに出ることはやめた。
カインが家でする仕事だから。
買い物も一緒に行き、寝るときも一緒。

そして、避妊せずに抱きたいとカインが言った。
つまり、子供が欲しい。そういうことだ。
もちろん頷いた。

私は早く家族が欲しかった。
だけど、シードはまだ2人で過ごしたいと避妊していたから。
カインは確実に自分の子であるとわかる子が欲しいのだろう。
だから、私を1人にしない。
でもその束縛が嬉しかった。
カインも浮気が出来ないのだから。

私たちは前の結婚のせいで傷ついた。
そんな私たちはお互いに浮気はしないとわかっている。
だけど、安心したかったから。


妊娠し、やがて女の子を産んだ。
カインはすごく喜んで可愛がっている。
幸せだと思えた。





ある日、カインが昔のことを語った。


「マークを自分の子だと思えなくて、エヴリンへの気持ちも冷めていって……
 そんな時、アイシャに毎朝会えることを楽しみにしていたんだ。」

「私に?」

「うん。アイシャの笑顔に癒されてたから。
 アイシャの近くにいたくて離婚しなかったと言ったら幻滅する?」

「ううん。驚いたけど。」

「じゃあ、下心満載で同居に持ち込んだと言ったら?」

「それも驚くけれど……でもあの夜、こうなるのが自然に感じたわ。
 あの日じゃなくてもいつかこうなった。そう思うわ。」

「家族になってくれてありがとう。」

「それは私の言葉なんだけど。1人になった不安をすぐに取り除いてくれてありがとう。」


毎朝の雑談の中で、1人が寂しくてシードとの結婚を受け入れたと話したことがあった。
早く子供が欲しいのに、シードがまだ2人でいたいから家族が増えないと愚痴を言ったこともあった。

人によっては、私がシードからカインに寄生先を変えただけ、と思えるかもしれない。
だけど、お互いにそれを望んでいるのなら、寄生や依存、束縛の何が悪いのだろう。
カインは私に強制したことはない。自分から受け入れているのだから。


私たちは、いつも一緒にいる。
たまに外で、いきなり溺愛モードになるカインには驚かされるけど、それすらも幸せだった。

溺愛モードの時は、シードが近くから見ていることをカインはアイシャに気づかせない。
いくら、彼が後悔していても手遅れだから。
子に絆されて結婚したネイラに、シードがどんなに苦労していたとしても。


アイシャが望む家族を与えられたのはカイン。
彼女の笑顔を見るために、カインはいつもアイシャのそばにいる。



<終わり>


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