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離婚したアイシャは荷物を纏めて、詰め込めるだけ詰め込んで家を出た。

身寄りのない自分には、僅かなお金とこの詰め込んだ荷物しかなかった。
シードとの思い出があろうが、必要な物を捨てるわけにはいかない。
売れそうな物は売ろうと詰め込んだのだ。
小さな荷台を引きながら歩く。家具はないけれど、大事な全財産だから。

幸い、結婚してまだ半年だった。
思い出はそんなになかった。
ご近所との付き合いは楽しかったけど、妻や夫を裏切った者たちの集まりだったと思ったら思い出したくもなくなった。
裏切られていたことをここにいる妻や夫が知ったら、どれくらいの人が許せるのだろうか。
子供のために、やり直す夫婦もいるだろう。
それはそれでいいと思う。



カインと待ち合わせをした場所についた。 
荷台を引いてやってきた私に笑って、よく頑張ったと褒めてくれた。

運良く、家具付きで個別の部屋も2つ、キッチンとダイニングもある予算以内の部屋を見つけた。
昨日、キャンセルされたばかりで朝一番の客の私たちに紹介された物件だった。

部屋を見に行き、そこに決めた。


「お得な物件だからね。新婚さんにもピッタリだ。
 前のキャンセルしたお客さんはね、3人目を妊娠したことがわかったんだ。
 だから、もう一部屋あるところに変えたんだよ。 
 お前さんたちも子供2人が大きくなるまでは住めると思うよ。」


カインと2人で住むので、新婚と間違えられたらしい。
訂正するとややこしくなりそうなので、苦笑いでそのままにした。


契約した部屋に、カインは昨日運び出して預けていた荷物を次々と運び入れた。
家具付きなので、あっという間に収納し終えた。


「本当にこの部屋を使っていいの?私ソファでもいいんだけど。」

「いいよ。とりあえず一部屋に全部入りそうだから。
 アイシャが一人で暮らせるようになった時は、そっちの部屋は物置かな。 
 だから問題ないよ。」

「ありがとう。仕事と住むところ、頑張って探すわ。」

「うん。焦らなくていいよ。アイシャがいてくれたら寂しくないし。」


カインは優しい。私を心配して気遣ってくれる。
彼の方が寂しいはず。
結婚して1年半は経っていたし、子供もいたんだし。
自分の子じゃなかったとしても、世話をした時間は消えない。


食事を取り、風呂にも入って寝ようと思った時、カインが声をあげた。


「布団、買うの忘れた。」


さすがに布団は買うつもりだったらしい。




 
「ダメだよ、アイシャ。僕がソファだ。」

「ここはカインの家よ?居候の私がソファだわ。」

「布団はアイシャのだ。君に権利がある。」

「ダメよ。体が休まらないわ。あ、待って?掛ける布団もないでしょう?寒いわ。」

「着込めば……」



結局、風邪を引いてはいけないと一緒に寝ることにした。

この布団は新品なの。
間違った大きさを買って、買い直して、いつか子供に使えばいいかと置いたままにしていたのを運んだから。

だから、シードとは使ってない。




明らかに新品の布団に、カインはホッとした。


「アイシャ、そんなに端に寝るのなら僕はソファに行くよ?」

モゾモゾと真ん中に寄ってきたアイシャを後ろから軽く抱きしめた。


「温かいだろ?」

「うん。」

「明日は雨みたいだな。」

「いっぱい食べ物買ってきて良かったね。」

「うん。明日も作ってくれる?」

「うん。好きなものある?」

「何だろなぁ……今日のスープはおいしかった。」

「ふふ。明日は違うスープにしようかな。」


そんな他愛もない話をしながら、だんだんとお腹にあった手が上に上がる。アイシャは逃げなかった。
カインはアイシャを仰向けに寝かせて、顔を近づけた。そして、唇が重なった。

 


 
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