上 下
8 / 10

8.

しおりを挟む
 
 
シードたちの調査員の仕事。それは基本的には平民に関わることである。

ある時、媚薬と麻薬が出回っていると情報が寄せられた。
軽い程度の物で、平民にも買いやすい値段設定らしい。

調査の結果、辿り着いたのがネイラたちがいた町だった。
あの町は王都の調査担当範囲だったのだ。

捕らえた者から聞き出した情報で、薬を渡したと思われる人物が5人あげられた。
ネイラとルルもその中にいた。

彼女たちがシードら調査員に薬を使えばすぐに捕まえられた。
そうすれば、誰からの指示だったかもわかるはずだった。

しかし、彼女たちを担当した男はそれぞれが………ミスをした。

声をかけるのはいいとして、誰もが媚薬を使って誘惑されるほどの期間がなかった。
つまり、誘われても断って焦らす予定が簡単に誘惑されてしまったのだ。
媚薬なんて使う必要もなく、あっさりと。 
既に体の関係を持っているのに、媚薬を使う必要がどこにある?
いつまで待っても使うはずはない。

ただ単に、抱きに通う男たちの出来上がりだった。
そんな男たちに麻薬ももちろん必要ないし、手元に置いておけば捕まるだけなので売り捌き終えている。

彼女たちが諜報員を誘惑している間に、その町で薬をバラ撒いた謎の男はとっくに姿を消していた。

まだ町にいるように思わせるため、調査対象になっていない者が続けて売っていたのだ。
日中、彼女たちを監視している者はそのことに気づかなかった。 


そんなことは知らず、さりげなく家探ししたり媚薬を試してみたいことを仄めかしたり。
全く意味のないことをしていた5人。
しかも、そのうち2人は全く関係のない女性だった。


ネイラは、小遣い稼ぎで薬を売る手伝いをした者だ。
自分で使うのはよくないとわかっていたので使っていない。
シードが薬について調べていることはすぐにピンときた。
在庫はすぐに売り捌き、手元には残さなかった。
だから、いくら探されても見つかるはずもない。
体の相性が良いので、妊娠して結婚してもらおうと計画した。
妊娠すれば、あの手の男は絆されるはず。
予定外だったのは結婚したばかりの奥さんがいたこと。
それを聞いて、後をつけた。
早く奪い取らなければ。そう思った。
愚かで可愛いシードは、避妊薬を信じて中に出した。
間違いなくシードの子供。

薬を売り捌いた過去はあっても、捕まってはいないし証拠もない。
頼まれたからその人の代わりに売った。熱冷ましの薬だと聞いていた。そう言った。
頼んだ男の人相も、覚えていない。それ以上答えようがない。

ネイラ以外の2人も同じ答えだった。

現行犯でもなく証拠物もない3人は無罪放免だった。


ネイラはシードに妊娠を理由に結婚を迫った。
だけど、シードは断り続けた。養育費は払うからと。
やがて産まれた自分そっくりな子供を見て………絆されて結婚した。


ロイドはレッティに謝り続けた。
だけどレッティは受け入れなかった。
やがて、前からレッティが好きだったという兄の友人と再婚した。

王都に遊びに来たルルと偶然出会ったロイドは………再び関係を持ってしまった。
ルルが王都に来たのは偶然ではない。ロイドの離婚を知ったからだった。
そのままロイドの家に居座って、やがて妊娠して結婚した。


お隣同士になったネイラとルル。
同じ町で知り合いでもあった2人は、自分たちの成功を祝った。
 


エヴリンはマークをご近所に預かってもらおうとしたが、短時間ならともかく長時間預かってくれる人はいるわけがない。
実家も病気の母に断られ、託児所も定員オーバー。
夜なら空いてるといわれ、仕方なしに調査員を辞めて昼夜逆転の仕事についた。
酔っ払いに酒や料理を出したり、それだけのつもりが体が寂しくて体を売ることが多くなった。
それを見かねた元調査員の知り合いが、どうせ体を売るなら娼婦になって情報を売れと貴族向けの娼館に臨時調査員として配属されるように手配してくれた。
10年間、娼婦と臨時調査員として働き、十分お金が貯まったところで遠くの町へと移った。
誰も知らない町で昼間の仕事につき、息子と普通の暮らしを送った。


  


 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

お飾りの妃なんて可哀想だと思ったら

mios
恋愛
妃を亡くした国王には愛妾が一人いる。 新しく迎えた若い王妃は、そんな愛妾に見向きもしない。

形だけの妻ですので

hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。 相手は伯爵令嬢のアリアナ。 栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。 形だけの妻である私は黙認を強制されるが……

見えるものしか見ないから

mios
恋愛
公爵家で行われた茶会で、一人のご令嬢が倒れた。彼女は、主催者の公爵家の一人娘から婚約者を奪った令嬢として有名だった。一つわかっていることは、彼女の死因。 第二王子ミカエルは、彼女の無念を晴そうとするが……

残念ながら、定員オーバーです!お望みなら、次期王妃の座を明け渡しますので、お好きにしてください

mios
恋愛
ここのところ、婚約者の第一王子に付き纏われている。 「ベアトリス、頼む!このとーりだ!」 大袈裟に頭を下げて、どうにか我儘を通そうとなさいますが、何度も言いますが、無理です! 男爵令嬢を側妃にすることはできません。愛妾もすでに埋まってますのよ。 どこに、捻じ込めると言うのですか! ※番外編少し長くなりそうなので、また別作品としてあげることにしました。読んでいただきありがとうございました。

許して貰わなくても結構です

音爽(ネソウ)
恋愛
裏切った恋人、二度と会いたくないと彼女は思った。愛はいつしか憎悪になる。 そして懲りない男は今でも愛されていると思い込んでいて……

大恋愛の後始末

mios
恋愛
シェイラの婚約者マートンの姉、ジュリエットは、恋多き女として有名だった。そして、恥知らずだった。悲願の末に射止めた大公子息ライアンとの婚姻式の当日に庭師と駆け落ちするぐらいには。 彼女は恋愛至上主義で、自由をこよなく愛していた。由緒正しき大公家にはそぐわないことは百も承知だったのに、周りはそのことを理解できていなかった。 マートンとシェイラの婚約は解消となった。大公家に莫大な慰謝料を支払わなければならず、爵位を返上しても支払えるかという程だったからだ。

【完結】22皇太子妃として必要ありませんね。なら、もう、、。

華蓮
恋愛
皇太子妃として、3ヶ月が経ったある日、皇太子の部屋に呼ばれて行くと隣には、女の人が、座っていた。 嫌な予感がした、、、、 皇太子妃の運命は、どうなるのでしょう? 指導係、教育係編Part1

処理中です...