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しおりを挟む一方、学園の外では、ビンガム侯爵とユーシスをはじめ、メリーアンの父クルミック伯爵、他高位貴族が中心となって国王陛下に上奏する意見書を纏め上げていた。
この国では既に婚約届を提出している貴族同士の婚約を王族が一方的に解消を指示することを認めない法がある。
過去に、手あたり次第のように令嬢に手を出す王族によっていくつもの婚約解消があったからだ。
なので、今回の件もビンガム侯爵がユーシス及びザカリスの婚約解消に同意していないにも関わらず国王陛下がブランカ王女殿下の行動を咎めないことを問題ありとしたのだ。
貴族の結婚は政略結婚が多い。
血筋や事業、援助などで結ばれた婚約なのだ。
自分の子供の婚約を壊されては困ると思う貴族は多い。
しかもブランカ王女殿下はまだ隣国第三王子エラド殿下との婚約を解消したわけでもない。
ユーシス又はザカリスがブランカ王女殿下に心変わりするかもしれないと国王陛下は思って静観していたようだが、婚約者がいるにも関わらず堂々と他の男に言い寄る現状に苦言を呈し、王族にあるまじき行為と糾弾することになったのだ。
さすがに国王陛下も伯爵家以上の名が多数記された意見書を目の当たりにしたことで、ブランカ王女殿下の味方を続ければ自身の国王の座も追われることになりかねないと重く受け止めた。
ブランカ王女殿下と隣国第三王子エラド殿下の婚約は解消になり、王子殿下は国に帰された。
帰る前にピオニーに『俺が結婚してやる』と焦って言っていたそうだが、きっぱり断ったらしい。
国に戻るとエラド殿下は騎士として辺境で働かされると決まっていたそうで必死だったようだ。
ブランカ王女殿下の処遇には国王陛下も悩んでいたという。
もうどこにも釣り合う男がいないのだ。
幼い頃から我が儘で癇癪持ちだと知れ渡っていたため釣り合う令息は早々と婚約を済ませてしまっていた。
このまま未婚で城に置いておくか幽閉かと悩んでいたところ、たまたま王都に来ていて王女殿下のことを耳にした辺境伯が『じゃあ、貰って帰る』と辺境に連れ帰ったという。
健康で子供が産める体なのだから有効活用しない手はないということらしい。
30歳年上の辺境伯の後妻になるということだろう。
辺境伯夫人は子供を産んだら離婚して実家に帰ったらしい。3人とも。王女で4人目の妻だ。
そしてどんなに我が儘を言っても王都に戻るには大変な立地にあるためどうしようもない。そして王家も王女を出戻らせることはない。
……うん。なかなかいい嫁ぎ先なのではないか、と誰もがホッとした。
2年後、メリーアンはユーシスと結婚した。
「メリーアン、君は一度の浮気なら知りたくないって以前に話していたよな。今でもそう思う?」
「そう思うけど……ユーシス様って絶対浮気しないと思うわ。愛人なんて絶対いない。」
メリーアンは丸くなったお腹を撫でながら答えた。妊娠中である。
「普通、妊娠中の妻は夫の浮気を疑うことが多いって聞くんだけど疑ってないんだ。」
「ないわね。ユーシス様って意外と潔癖だし私のこと大好きだもの。」
メリーアンがそう言い切ると、ユーシスは珍しく絶句した。
ユーシスは、腹黒で、潔癖で、愛情深い人だとメリーアンはわかっている。
一度会っただけでメリーアンが気に入ったと婚約が内定した時、初めて会った時の何がユーシスの気を引いたのかを考えた。
彼はメリーアンが男の友人がいないこと・婚約者であったタルボットと手しか繋いでいなかったことに関心を持ったように思えたので、男の手垢がついていない、キスもしたことがないような『身綺麗な』令嬢がいいのだと思った。
夫が浮気した場合の質問も、メリーアン自身が当てつけに浮気や再婚することを匂わせるかどうか確かめたのだろう。
そしてその『身綺麗な』対象はメリーアンだけでなく自分自身もそうなのだ。
「すごい信頼だな。」
「ええ。その信頼を裏切ってバレない自信ある?」
「ないな。」
まぁ、ユーシスがするはずもない。
そしてメリーアンの信頼がユーシスの望むものでもある。
バレるような秘密の恋はするべきではない。
私たちはそれを知っている。
秘密のドキドキ感よりも、堂々と愛し合える安心感が心地いい。
「愛してるよ。」
ユーシスのその言葉を疑う気持ちなど、一生ないとメリーアンは思っている。
<終わり>
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