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入学式を終えた後にタルボットから言われたことを兄と両親に伝えると、兄は笑い両親は眉をひそめた。

 
「声をかけないでくれ?自由にさせてくれ?アイツはバカか。」

「婚約者として友人に紹介してくれなくてもいいって、婚約を解消する私たち側からすると助かるけれどレッテン子爵家側にとっては損をするだけなのに。タルボットは自分が継ぐ家のことを何も考えていないのね。」


父と母は、もうタルボットにもレッテン子爵家にも何一つ情もなくなったようだ。
母の危機を助けたと言っても、娘を嫁がせるほどのことでもなかったという。
実際に母を助けたのは子爵の護衛だし、命にかかわるものでもなかったのだから。 
この15年間で十分なほどの礼は尽くしたはずだと父は言った。

レッテン子爵夫妻はいい夫婦なのだが、子爵の領地経営に問題があって落ちぶれてきているらしい。
そしてその跡を継ぐのがあのタルボットなのだから、メリーアンが結婚する前に判断できてよかったと両親はホッとしているのだ。





メリーアンは、友人のピオニーから婚約者のザカリスを紹介してもらった。
ユーシスとはまだ正式な婚約ではないため、侯爵夫妻との顔合わせの時にザカリスは来なかったからだ。
ピオニーはザカリスの婚約者でもありメリーアンの友人でもあることから、タルボットとの婚約を解消するための証人として協力者になってくれるのだ。 


「メリーアン、私の婚約者のザカリス様よ。」

「初めまして。ザカリスと呼んでくれ。僕もメリーアン嬢と呼んでいいかな?」

「ええ。よろしくね、ザカリス様。」


ザカリスはユーシスと少し似ていた。ザカリスの方が温和な雰囲気がある。


「兄上から、君たちを連れて来てほしいと言われている場所があるんだ。いいかな?」

「ええ。わかったわ。」


ピオニーと首を傾げながらザカリスについて行くと建物の端にある部屋に案内された。
その部屋の中には、兄とユーシスがいた。


「お、来たな。ほら、見てみろ。」


兄に促されて窓の外を覗き見ると、タルボットが複数人の男女と一緒にいるところだった。
しばらく眺めていると、タルボットの隣に座っている令嬢の手はタルボットの体によく触れている。
 

「あの赤い髪の令嬢がアデラ様なのですね?」

「そうだ。友人と言い張るには近すぎる距離だと気づいていない。」 

 
答えたのはユーシスだった。彼と並んで立つのは初めてのことだった。
少しドキドキしていると、友人たちの輪の中からタルボットが一人抜けた。


「タルボットがどこかへ行ったわ。」

「彼はこっちに来るよ。裏庭の方だ。」


反対側の窓の外を見ていると、タルボットが姿を現した。


「あそこでアデラ様を待つってこと?」

「そう。一応、2人で抜け出したようには見えないようにしているらしい。」

 
この建物の構造を思い出しながらメリーアンは聞いた。


「ひょっとして、タルボットがいる場所ってこの窓からしか見えない?」

「ああ。そしてこの窓は外からみるとすりガラスに見えるが、中からだと実際はちゃんと見える窓だ。」


つまり、誰にも見られていないと思いながら選んだ場所ではあるが、実際にはこうしてみられているのだ。


「あ、アデラ様だわ。」


彼女の赤い髪は目立つ。

彼女はタルボットの方に近づいてい行って抱き合った後、キスをしていた。 


「これって毎回同じパターンなのですか?」

「ああ。ひねりがないだろう?」


ユーシスの言葉に笑ってしまった。



 
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