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学園後期が始まっても、タルボットからは何の連絡もなかった。
メリーアンが領地に行かなかったことも知らないのではないだろうか。 
本当に今でも婚約者なのかと疑問に思うほど、タルボットが入学してからのこの半年を過ごしている。


そして後期が始まってひと月が過ぎる頃、兄が嬉しそうな顔で帰ってきた。


「はははっ!メリーアン、アイツは一線を越えたぞっ!」


つまりはキスをしたということだろう。言い方が少々紛らわしい。

 
「2人で裏庭に消えたんだがな、周りに人はいなくても建物の窓からはっきり見える場所があるんだ。」


兄は思い通りに事が進んでいて満足なのだろう。

それにしてもタルボットは愚かだ。
その浮気相手の令嬢は伯爵家、その婚約者は侯爵家。
そしてうちも伯爵家なので、子爵家のタルボットからすると格上貴族ばかりなのだ。
 
同罪である浮気相手の伯爵家からも、タルボットが娘を誘惑したんだと言いがかりをつけられるかもしれない。
慰謝料で没落してしまうのではないか。

たかがキス、されどキス。学園内の浮気としては十分婚約解消の対象となる事柄となっている。





それから少しして、兄が友人を連れて来た。

例の、婚約者の伯爵令嬢に浮気された侯爵令息だった。


「やあ。初めまして。ユーシス・ビンガムだ。」

「初めまして。メリーアン・クルミックと申します。」


兄と3人で話をすることになり、お互いに名前で呼び合うことも了承し合った。


「こちらの都合でメリーアン嬢には迷惑をかけて申し訳ない。本来であればもう婚約解消はできていただろうに。」

「いえ、ユーシス様はお兄様のご友人の方ですもの。お役に立てるのであれば構いません。」 

「……なぁ、オービス。こんなに素敵な令嬢を婚約者にしていたのに、あのタルボットという男は愚かすぎるよな。」

「そうだろう?やはり学園寮で暮らすと悪影響を受けるんだろうな。親元を離れた解放感もあるし。」


メリーアンが首を傾げると兄が説明してくれた。


「学園で問題を起こすのは、寮生が多いんだ。3年間の学生生活を終えると地方に帰る者が多い。だから、王都にいる間にいろいろと楽しもうとして高位貴族と知らず侮辱したり女性関係で問題を起こしたり。」

「寮って先輩も一緒なの?」

「ああ。だからよくないことも伝統がある。門限に遅れた場合の対処法とか夜中の外出方法とか。」

「毎年、何人か退学になっているが、理由が公表されないから寮生も危機感がない。」
 

いつの間にか挨拶もなく退学しているのだが、それは何かをしでかして退学させられたということが多いのだ。

悪いことをしても叱る大人の人数が寮生に対して少なすぎるため、目が行き届かない。
最初は躊躇したようなことでも、繰り返せば慣れるというもの。
しかし、大胆になれば人目に触れるのだ。


タルボットの期間限定の浮気も、誰にも咎められないから誰も気づいていないと思い込んで大胆になってきているのだろう。 

自分たちを客観的に見ることができれば、真っ青になるはずだ。
  

 
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