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王都の学園に入学する前日、メリーアンは両親と共に次の婚約者になる予定のユーシスの両親に会った。

ユーシスと会うのは二度目で、初めて会った時はまさかこんなことなるとは思ってもいなかった。

お互いにサインをした婚約届。これが提出されるのは少し先のことになる。


「この届はしかるべき時期、それぞれの婚約を解消した後すぐにこちらから提出させてもらうよ。」


ユーシスの父親、ビンガム侯爵が嬉しそうに言った。

そう。今はまだ、メリーアンにもユーシスにも別の婚約者がいるのだから。
 





翌日、入学式を終えたメリーアンが帰宅しようと友人と歩いていると、声をかけられた。


「メリーアン、ちょっと、こっち。」


メリーアンを呼んだのは、婚約者であるタルボットだった。
彼はレッテン子爵家の長男で、メリーアンよりも1つ上の学年にいる。
 

「タルボット、久しぶりね。」

「え?あ、ああ。」

「入学したわ。これからよろしくね?」

「え、えっと、そのことで話があるんだ。ちょっと、こっち。」


タルボットは友人から離すようにメリーアンを目立たない場所に連れて行って言った。


「あのな、学園内で僕を見かけても声をかけないでほしいんだ。
僕は常に友人たちといて、婚約者といっても学年の違う君を仲間に入れるのは変だし、君も同学年の友人たちと仲良くなるべきだろう?
声をかけられることで話が途中になったり、僕だけ友人たちの話がわからなくなるのが嫌なんだ。
結婚すればいくらでもメリーアンとは話せるんだから、学園にいる間は自由にさせてくれないか?」

「わかったわ。つまり、あなたのことは婚約者として誰にも紹介しなくていいのかしら?」

「ああ。もし、婚約者が誰かと聞かれても濁してくれると助かる。」

「そう。あなたがそれでいいのなら。」

「ああ。じゃあ、それでよろしく。」


タルボットはメリーアンの許しを得て嬉しそうに走っていった。


普通、『入学おめでとう』って言わない?

それに、入学の贈り物は?
期待していたわけじゃないけれど、婚約者に贈ることは常識でしょう?
タルボットが入学した昨年、私はあげたわよ?
 

両親の中でもメリーアンの中でもタルボットとの婚約解消は時期待ちであるだけで決まっているのだが、タルボットとレッテン子爵夫妻には婚約解消のことをまだ何も伝えていない。

正しく、現在も婚約者であるにも関わらず、この扱いはどういうことだろうか。

まぁ、これも婚約解消への加算ポイントだと思えばどうでもいいし、何か貰ったところで使ったかどうかも怪しいところなので気にしないことにした。
 

「アレが例の婚約者?」


一緒にいた友人ピオニーに聞かれて頷いた。


「そうよ。秘密の恋がバレていないと思っている、愚かな人。」


周りが見えていないと痛い目にあうのにね。 


 
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