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しおりを挟む第二王子マイルスが1歳になり、お披露目されることになった。
母親であるラフィティは約3年ぶりに社交界に顔を出すことになる。
彼女は自分がどう噂されているか知っているのだろうか。
周りの侍女はラフィティにおもねる者ばかりであったことから、ラフィティは怠慢な暮らしをしていた。
だが、カインロットがラフィティを拒絶したあの日から、生活習慣を改め始めたらしい。
そしてどうやらお披露目に出られる体形になったということだ。
ラフィティに避けられていたから半年近くちゃんと会っていない。
カインロットの正妃で王子の母親であるのだから、何を言われようが堂々としていればいい。
言葉の裏を読み取ることもできないだろうから、ニコニコしてくれていればそれでいい。
そう思いながら久しぶりに会ったラフィティに、カインロットは驚いた。
そしてお披露目会に来た貴族たちも、ラフィティの姿に驚いた。
彼女は痩せていた。ぽっちゃりとしていた結婚当初よりも更に。
だが、皮がたるんたるんなのだ。見えている頬も首も腕も。そのせいで、ひどく老けて見えた。
ラフィティはずっとニコニコしていた。
それが逆に不気味に見え、ラフィティに声をかける者はほとんどいなかった。
お披露目会が終わった後、カインロットはラフィティに聞いた。
「随分と痩せたようだが、体に問題はないのか?」
「味覚がおかしくて何を食べても味がしないから食べることが嫌になったの。」
「そうか。」
嗅覚と味覚に異常があることは聞いていた。もっと早く対処すべきだったのだろう。未だ治らない。
「ねぇ、痩せたから抱いてくれる?」
「……すまないが、ソノ気はない。」
「そうよね。」
その後、部屋に戻ったラフィティが問題発言をしたと侍女から報告があった。
「……今、何と言った?」
「ラフィティ妃殿下が、マイルス殿下を密かに連れ出して育ててくれる家はないか、と。」
聞き間違いではなかった。密かに連れ出す?誘拐か?行方不明にする気か?
「理由をお聞きすると、子供がヘインズ殿下おひとりになればまた子供を産めるから、と。」
……そういうことか。
カインロットは、ラフィティの問題発言の一因は自分にあるとわかった。
定期的にラフィティの元にも通うと言えばよかったのだろう。
だが、もう生理的にラフィティを受け付けないのだ。
太っていようが、痩せていようが、あの強烈な臭いの中での行為を思い出さずにはいられない。
それに、愛するマリージュ以外はもう抱きたくないのだ。
そして、王族を害するような発言をしてしまったラフィティは処罰せざるを得ない。
カインロットは両親に報告し、ラフィティを離宮に幽閉することを決断した。
表向きは病気療養である。
お披露目会のラフィティの姿は、それに相応しいと言えた。
ラフィティに恋愛感情を伴う気持ちはずっと芽生えなかった。
だから、ただ子供たちの母親として、妃として過ごしてくれればよかったのだ。
政略結婚とはそういうもの。子供を産み終えると閨を共にしない夫婦は多い。
その割り切りが、ラフィティはできなかったのだろう。
自分がカインロットを好きなように、カインロットも自分のことが好きだと思い込んでいた。
ラフィティがカインロットとマリージュと引き合わせなければどうなっていただろうか。
ラフィティと結婚する場合、どのみち側妃は必須だった。
ただ、その場合は側妃とも閨事をするのは当たり前で、ラフィティは納得しただろうか。
納得しなければ婚約解消となり、それぞれ違う者と結婚することになっていただろう。
カインロットがマリージュをそばに置きたいがためにラフィティに誤解させた。
マリージュには子供を産ませないと。抱かないとは言わず誤解させたのだ。
ズルいことはわかっていた。
この結末も、成るべくしてなったと言えるかもしれない。
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