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ラフィティは男の子を出産した。第二王子である。

見事にラフィティは王太子妃としての責務を果たし終えた。

そう。子供に関しては果たし終えたのだ。
カインロットはもうラフィティを妊娠させるつもりはないので、抱くつもりもない。
 

2人目の王子はマイルスと名付けられ、ラフィティはマイルスに夢中になっていた。
その過程で1人目のヘインズのことも思い出したが、1歳半になったヘインズはラフィティが姿を見せると逃げるようになり、捕まったら泣き出して大変なため、ラフィティはさりげなく追い出されているという。
 

「少し会わなかっただけで、母親を見て泣くなんてひどいと思わない?」


乳母や侍女たちは何となく理由を察しているが、口にすることはなかった。

マイルスにも、ヘインズが小さい頃と同じように既に萎れた胸にも関わらず母乳を与えようとしたり、抱っこしたら泣いたり、昼寝をしていても起こしたりすることでラフィティが姿を見せただけで泣くようになった。
 

「どうして母親に懐かないのかしら。困った子供たちね。」


いや、仕事が増えるのでもういっそのこと関わってくれなくていい。そう周りは思っていた。




子供たちに泣かれて会いに行く気もなくなったラフィティは侍女に聞いた。


「王太子妃の仕事の中で私にできるものはある?」


侍女は返答に困った。

ラフィティは結婚直後、まだ妊娠が発覚する前のほんの数か月の間だけ、与えられていた仕事をしたことがあった。

しかし、孤児院に行けば『将来、この子たちは破落戸や娼婦になるのでしょう?』と言ったり、医療院に行けば『早くお迎えが来るといいのにね』とあの世からの迎えともとれる発言をして患者たちの顔色を悪くさせたのだ。

もちろん、どちらからもラフィティの慰問は今後一切お断りをされた。


「王太子殿下からは、何もしなくてよい、王宮でのんびり過ごせばよいと言われております。」

「あ、そうだわ。カイン様よ。カイン様を癒すことが私の仕事だわ。」

「王太子殿下を癒す、ですか。どのようになさるおつもりでしょう?」

「癒すって言えば、ほら、夜の、閨事じゃないかしら?侍女長に予定を組んでくれるように言って。」 


ヘインズを出産後も、ラフィティが子供を産むために子種が欲しいとカインロットに頼んだことで侍女長が予定を組んだ。
その後、すぐにマイルスを妊娠したためにカインロットの夜の訪れは再びなくなった。

子供は2人でいいと言われたから、妊娠のために子種をもらうのではなく、癒しと夫婦仲を深める意味で閨事を再開するのはいいことだとラフィティは思ったのだ。

確か、結婚後から妊娠がわかる前までは週に1度、閨事があったように思う。

だからまた同じようにカインロットが部屋に通ってくれるとラフィティは期待した。


しかし、やってきた侍女長に言われたのは、想像していない言葉だった。


「王太子殿下からラフィティ妃殿下との閨事の予定は組み入れる必要はないと言われております。」
 
「え……?うそ、なんで?」

「妃殿下の役割は子供を2人産むこと。立派に王子殿下を2人お産みになられたことで役目は終わりということになります。」

「え……?だって、夫婦、なのに?」

「王族の方々にとって、別に珍しいことではございません。お忙しいので夫婦の義務など必須ではないのです。」 


おバカなラフィティでも、婚約者時代とは違ってほとんどカインロットに会えていないということにようやく気づいた。
ラフィティはカインロットのことが好きだったが、これは政略結婚だったということも思い出した。


ラフィティはカインロットから好きだと言われたことがない。
侍女長の言葉からも、カインロットにほとんど会えないことからも、自分に好意がないと気づいた。


本来であれば、公務で顔を合わせる機会はあるし打ち合わせもある。
しかし、公務を放棄したラフィティには関係ない。 

食事も一緒にできるにも関わらず、カインロットが敢えて誘っていないことにも気づいていなかった。

 
 
 

 
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