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ラフィティは男の子を出産した。

男子継承優先のこの国では、やはり第一子が男であることが喜ばれる。

王子を産んだラフィティは、よくやったとみんなから褒められて鼻高々になっていた。

結婚後3年以内に妊娠し王子を産んだことで、子供を産むための側妃が検討されることはない。
可能性があるとすればカインロットが手を付けた女性が妊娠すれば側妃になるだろう。
マリージュは妃の仕事のために側妃になったのだから、ラフィティの中ではカインロットの妃ではなくなっていた。

側妃という地位を勘違いするなとあんなにマリージュに釘をさしていたことは何だったのかと思うほどの変わりようだった。
その代わり、王子ヘインズの話ばかりするようになっていた。

マリージュも、侍女たちも同じ話を何度も聞かされる。


「ヘインズが乳母の母乳を美味しそうに飲むから私も試してみたの。だけど飲んでくれなかったわ。」

それはお腹がいっぱいだったのでは?あるいは乳母の乳首と違うから嫌だったのでは?
というか、既に萎んだように見えるその胸は母乳がもう出ないのでは?


「ヘインズが寝返りをしたの!」

時期がくれば誰でもするのでは?


「ヘインズがヨダレを私の服につけたの。」

よくあることでしょう。嫌なら近づかなければいいのでは?


「ヘインズが私が抱っこすると泣くの。」

あんな不安定な抱き方されると怖いからでは?それに臭いがキツイから……


「ヘインズが私を見ると泣くの。」

昼寝しているのに無理やり起こしたからでしょう。それに拒絶され始めたのでは……

 
ヘインズが、ヘインズが、ヘインズが………

毎日のようにラフィティに振り回される侍女や乳母が出した結論は『再び妊娠作戦』だった。


「ラフィティ妃殿下、ヘインズ王子殿下は健やかにお育ちです。そろそろ王子殿下のご兄弟をご検討されてもよろしいのではないでしょうか。」


侍女たちは知っている。出産後、いつまで経ってもカインロットがラフィティを抱いていないことを。

ヘインズに夢中なラフィティは大好きな夫との夜の夫婦生活がないことをすっかり忘れていた。


「ヘインズに兄弟を?まあ。そうだったわ。カイン様には最低2人は産んでほしいと言われていたのに。
ふふ。カイン様にお願いしに行かないと。」
 

ラフィティは来ないように言われていたカインロットの執務室を訪れた。 




「カイン様~!子種を授けてくださいませ!」


執務室の前にいた護衛がカインロットにラフィティの入室伺いをしようと扉を開けた途端、ラフィティが入り込んでそう言ったのだ。

中にいたのはカインロットだけではない。数人の事務官やマリージュもいて呆気にとられた。


「……ラフィティ、ここには来てはいけないと言ったはずだが?」


カインロットの不機嫌そうな顔にも気づかず、ラフィティは勝手に話を続ける。


「ヘインズの弟か妹が必要です。私は子供を産むことがお仕事です。」

「わかった。侍女長にそれを伝えてくれ。そしてもうここには来ないでくれ。」
 

侍女長に伝えるのはラフィティが妊娠しやすい日を医師と話し合って決めてもらうためなのだが、それを理解していないラフィティは執務室から出るように促されながらも言った。


「ふふ。今日の夜、部屋で待ってますね~」


扉が閉まると、カインロットは大きなため息をつき、他の者はマリージュを含めて苦笑い。

 
「……あれではいつまで経っても我が国の次期王妃として表に出せそうにない。」


婚約者時代のラフィティはカインロットの命令に従って人前ではほとんど口を開くことはなかった。
ただニコニコと微笑んでいればいいと言われ、人の顔と名前もなかなか覚えられず難しい会話にもついていけないラフィティはその指示に従っていたのだ。
 
そして王太子妃になった今では、仕事はマリージュがしてくれるから問題ないと以前よりも自由な生活になったことにより、どこで何を言い出すか不安な妃になってしまった。






 
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