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しおりを挟むマリージュがカインロットの側妃になることは、ラフィティとの結婚式直前に公表された。
正妃はラフィティで、王都内の公務を、地方及び他国には側妃マリージュが代行することになると知り、ホッとした貴族家も少なくない。
それだけラフィティの頭が悪いことは周知の事実になりつつあった。
正妃と側妃を一度に娶ることは今までにないことだが、結婚式に他国の関係者も出席するため、マリージュの顔を見せる必要もあると判断されたのだ。
もちろん、カインロットと結婚式を挙げるのはラフィティだけ。マリージュは参列者になる。
マリージュが側妃になることを、妃と名乗るのは自分だけでいいと思っているラフィティは未だ納得していない。
なので、マリージュに望まれているのは仕事だけ、勘違いしないようにと何度も言うほどだった。
「ご心配要りません。私は側妃として仕事をするだけですので。」
マリージュのその言葉に、ラフィティは満足して去っていく。
側妃としての仕事に、閨事も含まれているということに気づくことなく。
そしてカインロットとラフィティの結婚式が行われ、同時にマリージュも側妃となった。
初夜はもちろん、ラフィティのところだった。
王族は基本的に夫婦の寝室というものがない。
閨事をするときだけ、妃の寝室に向かうことになっている。
そのまま朝まで過ごす王族もいるが、事を済ませれば自身の部屋に戻ることがほとんどだ。
これは側妃や愛妾が多かった時代から続いているもので、正妃の精神安定を考慮された慣習となっている。
それなのに、ラフィティは納得しなかった。
初めての営みを終え、ラフィティにゆっくり休むように伝えたカインロットに縋りついたのだ。
「どうして?朝まで一緒にいて。愛し合う夫婦は毎日一緒に寝るものだって聞いたわ。」
「ラフィティ、私は誰かと一緒に眠ったことなどない。人の気配を感じると眠れない。」
「そのうち慣れるわ。」
「君の両親は一緒に眠っていたか?違うだろう。
私は夜遅くまで仕事をする時もあるし、朝早くに起きなければならない日もある。
君とは時間が合わないし、何より睡眠不足だと仕事に支障を来す。我が儘を言わないでくれ。
ここに来る日は予定がきめられているんだ。それに従ってくれ。」
そう言ってカインロットは部屋を出た。
初夜に純潔の妻を抱いた後に言う言葉としては冷たいかもしれない。
だが、初めが肝心なのだ。
ラフィティは一度許せば何度も強請るだろう。
毎日ラフィティの隣で眠ることになるなど、冗談じゃない。
彼女に望むのは、王家と公爵家の血筋を引く子供だけなのだ。
優しく抱いたつもりだが、正直言って凹凸の少ないラフィティを抱くのはつまらなかった。
『キャッ!恥ずかしい』とばかり聞かされて、いい加減にしてくれと言いたくなった。
それに彼女の体はどうなっているんだ?……いや、思い出したくもない。
早く子供ができればいい。そうなればラフィティの寝室に行かなくて済むから。そう思った。
部屋で風呂に入った後、控え目に扉が叩かれたことに気づいた。
「……何かあったか?」
「王太子妃殿下がお越しに……」
「……部屋に戻せ。」
するとラフィティの声が聞こえた。
「あ、カイン様はいるのね?それを確かめたかっただけなの。いるならいいわ。おやすみなさい。」
女の勘だろうか。
マリージュのもとへ本当に訪れていないかを確かめにきたのだろう。
あながち間違いではない。
カインロットの部屋とマリージュの部屋は、実は隠し通路で繋がっている。
そしてマリージュは既に待っているのだから。……カインロットの寝室で。
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