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マリージュをカインロットの側妃にするということに、ハーモニア公爵もラフィティも反対した。

それはそうだ。彼らは側妃にするためではなく、ラフィティの影になる事務官としてマリージュを選んできたのだから。

カインロットは言い聞かせるように説明した。


「外遊にラフィティを連れて回れるとお思いですか?大国ソルージャ帝国語を話せないのに?」

「話せなくてもカインロット王太子殿下が一緒なのだから大丈夫でしょう?」
 
「妃だけで集まることもあるのですよ。そこにマリージュを連れて入れたとしても通訳してもらっている間に会話について行けず発言もできなければ我が国の評価が下がります。」


これはラフィティを王太子妃にすることを悩んだ一因でもある。
過去にも恋愛結婚した王太子の妻に語学力がなく、結局は側妃を娶って外遊は側妃の仕事となったのだ。 

元々、ラフィティを王太子妃にするのであれば側妃がいないと無理な話なのだ。
それなのにラフィティが可愛い余り、ハーモニア公爵までカインロットが側妃を持つことに反対することが悩みの種でもあった。
だから、カインロットはラフィティとの婚約解消を真剣に考えようと思っていたのだ。

側妃か婚約解消か。ラフィティはカインロットが好きだから婚約解消は絶対にないだろう。
マリージュを側に置きたいカインロットとしてもそれは望むところ。
つまり、側妃を認めさせるには今が絶好の機会というわけだ。


「ハーモニア公爵、私はマリージュ嬢に子供を産ませる気などありません。私の子供を産むのはラフィティだけだとお約束します。」


ラフィティは嬉しそうに喜び、ハーモニア公爵は意味がわかっているのだろう、悩んでいた。 

カインロットはマリージュに子供を産ませないとは言ったが抱かないとは言っていない。ハーモニア公爵はその意味をラフィティとは違い、正確に理解していた。

 
「男ならあなたもわかりますよね?」


自分だけを愛してくれるのだと喜んでいるラフィティに気づかれないようにカインロットはハーモニア公爵にだけ言った。
実はハーモニア公爵には昔から浮気相手が何人もいるのだ。実際、庶子もいる。
妻が月のものの時、妻が妊娠中、妻が子供を産んだ後、屋敷内でもお手付きになった女性は数知れず。

側妃狙いの令嬢にカインロットが誘惑されることを思うと、子供を産ませる気はないマリージュを側妃にして相手をさせた方が面倒なことにならないという判断にならざるを得ないのだ。

ラフィティが妊娠などでカインロットと同伴していなければ、外遊先でも寝所にやってきて一夜の寵愛と妊娠を狙う女性がいる可能性もあるし、カインロットが旅先で気に入った女性を寝所に引きずり込む可能性もあるのだ。
側妃としてマリージュが一緒であれば、間違いは起こりにくくなる。 


「わかりました。ですが、マリージュ嬢を側妃にするのは今すぐではなく、ラフィティとの結婚の時にしていただきたい。」 

「そうですね。それがいいでしょう。」


カインロットとハーモニア公爵の意見が纏まった時、ようやくラフィティが話に戻ってきた。


「マリージュさんが外国でのお仕事も全部やってくれるってことでいいのよね?よかった。私、馬車で何日も移動することが苦手だから。私はお城にいるだけでいいのよね?」

「そうだな。君の仕事は私の子供を2人産んでくれることが最優先だ。」


カインロットの言葉をどう受け止めたのか、嬉しそうにお腹に手を当てている。……お花畑な頭だ。


「マリージュ嬢がいることで側妃狙いの貴族が減ることも助かりますな。」
  

ハーモニア公爵は3年待たずに側妃がいる利点をあげて、妊娠を想像している娘の行動から目を逸らした。
 
 


 
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