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しおりを挟む父がどこか覚悟をしたような顔をしていたので、マリージュが自分の娘かもしれないということをカインロットに打ち明けるつもりなのかと思って待っていたが、そんな様子は見受けられなかった。
言うとすればカインロットにだと思っていたが、まさか母に言うつもりなのだろうか。
正直言って、母に打ち明ける必要性は感じない。
マリージュが父の娘であるという証拠はどこにもないからだ。
それに、彼らは少なくとも6年は不貞をしていたことになる。
今更、それを知らされても母もいい迷惑だろう。
だが、いつもと変わらない母の様子から、父は母にも打ち明けた様子はなかった。
形だけならありかもしれないと口にはしたものの、やはり兄妹が夫婦になるということに父は抵抗を感じたのかもしれない。
カインロットからすると、異母妹であってもなくても関係ない。
マリージュが抵抗しなければ、抱ける。
倫理観などどうでもいい。
マリージュという一人の女性を愛し、欲情するのだから。
再会してから、日に日にその感情は増していく。
子供を作らない側妃といっても、抱かないとはいってない。
マリージュさえソノ気になってくれれば、禁断の関係だろうと平気だ。
まぁそれは、近くにいればいつか、と思っていたが側妃になる方が都合はいい。
父が覚悟を決めて打ち明けた相手がマリージュであったと知ったのは数日後だった。
「国王陛下に内密に呼ばれて言われました。カインロット王太子殿下の側妃になる可能性があることを。そして、あなたを決して受け入れてはいけないという理由を。」
父はマリージュが拒むことで何とかなると思っているのだろうか。甘い考えだ。
こういうことは男側に言わないと意味がない。力ずくだと女の抵抗など意味を成さないのだから。
それとも、息子が嫌がる女性を襲う男ではないと信じているのか?
生憎、好きな女が目の前にいるというのにいつまでも我慢できる男じゃないんだ。
長年不貞をしていたあなたの息子なんでね。欲しいものは欲しい。同じだろう?
「父はあなたに白状した?」
「可能性は十分にある、とだけ。」
カインロットの侍従が部屋の中にいるため、核心をつくような会話ができず小声で話し、どこか濁した言葉ばかりになるが2人には通じていた。
侍従に聞こえていたとしても、意味不明な会話に思えるだろう。
「そう言われてどう思った?」
「知っていたので特には何も感じませんでした。」
やっぱりマリージュも最後の日のことを覚えていたのだ。
父はどう思っただろうか。
国王の娘かもしれないと言われてマリージュが喜ぶか、驚くか、反応次第でくぎを刺すかとあれこれ想像していただろうが、マリージュは特に反応を示さなかったようだ。
さぞかし拍子抜けしたことだろう。
「あなたの側妃になると妊娠して子供を産むこともできないし、他の誰とも結婚できなくなるがいいのかと聞かれましたので、構いませんと答えました。」
「本来の正妃と側妃が逆になりそうだな。」
「え?」
「本来であれば、正妃に子供ができなかった場合に側妃が生むことになり、仕事は正妃がやる。
だが、ラフィティが子供を産み、マリージュが仕事をする。そうなるからな。」
「そうですね。それで構いません。」
「だが、子供を産む必要はないが夜の務めを果たしてほしいと言えば?関係は秘密になるが。」
父はもちろん、ラフィティにも関係を知られては厄介になる。
しかも兄かもしれない男に抱かれる気があるかとマリージュに聞いたのだ。
「何事もバレなければなかったことと同じです。バレた時の言い訳と覚悟があれば問題ないのでは?」
禁断かもしれない関係を受け入れる覚悟のあるマリージュは思った以上に柔軟で大胆な女なのかもしれない。
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