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しおりを挟むマリージュは王宮内にある小さな離宮の一つで暮らすことになった。
王太子妃教育を受けることが知られた場合、マリージュが側妃になると思われるから目立たない場所でなければならない。
教育の教師も離宮を訪れることになっていた。
そんな中、カインロットはマリージュの元へコッソリと訪れた。
もちろん、2人きりで会うことは憶測を呼ぶため、侍従も一緒だったが。
「何か不自由はないか?」
「いえ、至れり尽くせりでこれでお給金をいただいてもいいのかと悩んでいます。」
ラフィティが王太子妃になるのはまだ1年以上先なのだが、マリージュは教育の時点から給金を受け取る契約になっていた。
しかも、離宮には使用人も配置されているので家事をすることもない。
「正当な仕事の対価だ。気にすることはない。ところで君は覚えているか?」
私のことを。離宮のことを。あの頃のことは幼かった君の記憶にあるのだろうか。
声を発さずに『マリー』と口だけで言ってみた。
「ええ。」
マリージュも『カイン』と口だけで答えた。
それだけで、秘密を共有できた気がして、カインロットはこの先マリージュと会えることが楽しみになったのだ。
マリージュの教育は期待以上でとても順調に進んでいると教師陣から報告を受けた。
両親もカインロットもホッとした。
マリージュが使えないようであれば、すぐに別の者を探す必要があると思っていたからだ。
その時は、ハーモニア公爵やラフィティの意向は無視し、側妃として候補者の選定を開始するつもりだった。
そうなった場合、ラフィティが側妃を拒否することはわかっているが、本人がバカなのが原因なのだ。
受け入れないのであれば、ラフィティとの婚約を解消することになっていただろう。
ハーモニア公爵に睨まれることがわかっていながらラフィティの後に正妃になりたがる令嬢がいるかと言えば微妙だが、その時は王命にしてでも新しい婚約者が必要になっただろう。
そうならなくて良かったというのがカインロットたちの心境だった。
「マリージュ嬢であれば素晴らしい側妃になると思うのですが……」
マリージュが側妃候補ではなくラフィティの補佐をするために学んでいると知っている教師陣はもったいないと思っていた。
愛嬌を振りまくだけで頭空っぽの王太子妃だけでなく、知性溢れる側妃がいれば、カインロットの治世も問題がないと思われるからだ。
側妃ではなく王太子妃の影とは……そう惜しみながら部屋を出る教師陣を見送った後の国王夫妻は対照的だった。
「やっぱりマリージュはカインロットの側妃になるべきじゃない?」
「それはならんっ!あ、いや、ハーモニア公爵の手前、結婚3年間は子供ができるか待つべきだ。」
「そうよねぇ。ラフィティは意外とポンポンって生みそうだし。それなのに側妃にしたらハーモニア公爵はお怒りになるでしょうね。」
「マリージュを外交や地方を訪れる際に同行させるとして正妃の代行側妃にすると言えばどうでしょう?
要はマリージュを側妃にしても子供を作る気はないと言えば問題ないのでは。」
カインロットはいい案なのではないかと思った。
マリージュを同伴できない場所に行く場合、ラフィティの頭の悪さが他国に知れ渡る可能性がある。
重要な国同士の会話にはマリージュを連れて行きたいのだ。
「正妃の代行側妃、か。それならありかもしれんな。」
父は何かを決心したようにカインロットをみつめた。
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