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卒業試験に合格したマリージュは、卒業式には出席しなかったがカインロットたちの学年と一緒に卒業したことになる。


そして屋敷ではもう戻らないつもりで荷物をまとめ始めていると、王家から内々に手紙を受け取った父が久しぶりに部屋にやってきた。 


「卒業まであと1年あると思っていたのに、もう王城で働くことになっているなんて何をやったんだっ!」


王家からの手紙を床に叩きつけて怒るほど、マリージュが勝手に行動をしたことが許せないらしい。 


「王太子殿下の婚約者であるラフィティ様に誘われたのです。仕事を手伝ってほしいって。
ラフィティ様がご結婚されるまでにいろいろと学んでおこうと思い、卒業してしまおうかと。」

「だから、どうしてお前が選ばれたんだ?」

「成績が良かったことと、婚約者がいなかったことが大きいでしょうね。ラフィティ様の御父上、ハーモニア公爵様がいろいろとお調べになられて私を選ばれたようですよ?」
 

自分の無関心により娘が選ばれた原因でもあると気づいたのか、父の顔色は赤から青に変わった。
公爵家に調べられたのだ。他に何を探られたか不安になったのだろう。

 
「お、お前が卒業するまでに、ちゃんと相応しい婚約者を選んでやるつもりだったのに。」
 
「男爵の後妻ですか?侯爵の愛人ですか?その嫌がらせはバイエル伯爵家の名を傷つけますよ?」


父は、母が亡くなった後、わずか3か月後に再婚した。
継母は男爵令嬢で子連れだった。
要するに、父の浮気相手とその息子アダンを連れて来たのだ。アダンはマリージュより2歳下だった。

これはマリージュの母ミクシィの実家からも、他家からも白い目で見る者が多くいた。
なぜなら、バイエル伯爵家はミクシィの実家から援助を受けて立ち直ったからだ。

元々、母とは政略結婚で、父は継母を愛していた。
政略結婚の裏側は、母を国王陛下の側妃にしないための圧力と取引が王妃の実家からあったのだと思う。
王妃は母のことを何も知らなかったのだろう。知られる前に母を婚約させたのだ。

母の死後、マリージュを引き取ると言ったミクシィの両親の申し出を断ったにも関わらず冷遇し、マリージュのためにと送金をしてくれているのに自分たちが使っていると知ったのは今年のこと。 

そのため、マリージュは早く独立したかったが、王城で働く試験が締め切られた後であったためにもう1年間学生でいるつもりだったところ、ラフィティに声をかけられたのだ。


「っどうして家名に傷がつくのだっ!」

「借金があるわけでもないのに、後妻や愛人に娘を売るなんてバレないとでも思っているのですか?
伯爵家の跡を継ぐアダンまで白い目で見られることになるとまた落ちぶれてしまいますよ?
その手紙の内容に書いてあるかもしれませんが、私に縁談は不要です。勝手に結婚できませんので。
私に関して、何もしないようにしてくださいね。それと、母の実家からの送金はやめてもらいました。」

「勝手になんてことを……」
 
「もう独り立ちする私のための送金なんて必要ないですから。もっとも、大して私に使われていたようには思えませんでしたけどね。」


これを機に、バイエル伯爵家から籍を抜いて母の実家の籍に入れてもらった方がいいかもしれない。
学園を卒業したことで、自分から籍を抜くことに親の承諾は必須ではないから。

この男は私の父親ではないかもしれないのだ。ふとそれを思い出した。

おそらく、カインロットに再会したことが引き金となったのだろう。 



 
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