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しおりを挟む王太子カインロットには婚約者がいる。
ハーモニア公爵令嬢ラフィティ。1歳下の可愛い容姿の女性。
カインロットが12歳、ラフィティが11歳の時に結ばれた婚約だった。
ハーモニア公爵家はこの国の貴族家として一番上にいる。
男2人の後に生まれたラフィティは非常に可愛がられて育てられた。
そのラフィティがカインロットに一目惚れしたのだ。
王太子の婚約者になるのは、ほぼ当然という流れで決まったようなものだった。
カインロットとしても、ハーモニア公爵家を袖にしてまで選びたい令嬢がいたわけではなかったから。
だが、カインロットは今すごく頭を悩ませている。
ラフィティは、明るくて可愛いし周りからも人気が高く、少しぽっちゃりはしているが、カインロットともお似合いだと言われている。
だが、物凄く頭が悪いのだ。
学園の成績は、筆記ではないところで教師たちが甘すぎる点をつけてくれているお陰で辛うじて真ん中付近にいるといった有様だし、王太子妃教育などあと10年かかっても終わらないと言われている。
この国の王族は国民に向かってニコニコ手を振っていればいいだけではない。
王妃・王太子妃でもそれなりの仕事を与えられ、決裁しなければならないこともあるのだ。
教育係からラフィティの進み具合を報告されるたびに、両親とカインロットは頭を悩ませているのだ。
「父上、やはりラフィティが王太子妃では厳しいのでは……」
「わかっている。だが、彼女は絶対に婚約解消しないだろう?お前に夢中だし、ハーモニア公爵家もそれを許さない。そして今日、ハーモニア公爵から案を出された。」
「どのような?」
「本来、王太子妃・王妃がすべき執務を全て丸ごと請け負ってくれる者を置けばいい、と。」
「……ハーモニア公爵がラフィティの結婚と同時に私が側妃を持つことを許したということですか?」
本来であれば、王太子の正妃となるラフィティに3年間子供ができなければ側妃が検討される。
そして側妃が妊娠した後に正妃が妊娠しても、生まれた順に継承順位が与えられるため3年が過ぎると必ずしも正妃の子供だから跡継ぎになれるとも限らなくなるのだ。
ただ、正妃に子供がいない3年間の間に王太子が別の女性を妊娠させてしまうと、その女性は側妃にはなれるが子供の継承順位は最初とは限らない。3年間の間に正妃が妊娠すれば、正妃の子供が最初になるのだ。
その側妃を置くことを最初からハーモニア公爵は許して、側妃にラフィティの仕事をさせるつもりなのかとカインロットは思った。
「違う。側妃ではなく、ただ単に仕事をさせるためだけの者だ。」
「専属の事務官ということですか?」
「そのようなものだな。だがそれでは一般の事務官が与えられていない権限の内容まで把握させることになる。」
「何人も代えがきかない。それが問題ということですね。」
「ああ。そして女性でなければならない。王太子妃と接触することが多くなるのだ。親密な様子を勘違いされて不貞を疑われるようなことがあってはならぬ。」
「全く、面倒なことですね。いっそのこと側妃にした方が手っ取り早いというのに。」
親バカなハーモニア公爵は、ラフィティのために王家の中まで口出ししようとするのだから切れるものなら切りたい相手になりつつあるが、権力のある公爵家の令嬢ラフィティに好かれている限り簡単に切ることは難しい。
いくらラフィティに妃は務まらないとわかっていても、こうして代案を用意するのだから。
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