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しおりを挟むようやく噂が消え、平穏な日々が戻ってきた。
ラモン公爵家の最終的な噂は、
『現公爵セレーネは前公爵オズワルドの血筋であり、子供たちは現夫ジャイルズの子供』である。
否定も肯定もしなかった噂はそれで落ち着いた。
良識ある貴族たちが納得していることをいくら下が騒ぎ立てようと、ラモン公爵家に何の落ち度もないどころか国の法律や国王陛下まで非難していることになる。
セレーネが正式にカルダモ伯爵を訴えてからは、それもおとなしくなった。
カルダモ伯爵は 、格上の公爵家を何の根拠もなく侮辱したということ、それを衆人環視の前で行ったという行為が伯爵位にある者として相応しいと言えないと判断され、伯爵家の血筋の者に爵位を渡すことになった。
問題の発端となった息子については、再教育により貴族令息として問題がないと判断されればカルダモ伯爵家の養子になることは可能だが、伯爵の跡継ぎとするならば厳しい判断が下るだろうと言われた。
つまり、よほど品行方正な人間にならなければカルダモ伯爵にはなれないだろうということだ。
これはまだ14歳であった令息への救済措置でもあったが、そもそも新カルダモ伯爵になる者が令息を養子にすることがなければ、もちろん伯爵になれる可能性もない。
一見、喜ばせるような甘い措置だが、爵位を継げる可能性はほぼないのだ。
ただ、努力は誰かが見ている。反省し心根を正せば王城で文官や騎士としてエリートの仲間入りを果たすことも可能だという将来的展望を令息に残したということだ。
……まぁ、同じような事例で努力が見られた令息は1割もいないらしいが。
ともあれ、平穏な日々が戻ってきた。
ちなみに、あの騒動の最中にもちろんジャイルズもいた。セレーネの夫なのだから。隣に。
だが、一言も発していない。ジャイルズはそういう男だ。
ラモン公爵はセレーネ。
ジャイルズは夫というエスコート役で、妻に他の男を近づかせないための添え物。
他人の前だと自分からは決して口を開かない。最低限の社交のみ。
それでもセレーネの夫として10年、ラモン公爵家に何の陰りもないことはジャイルズの手腕だと認められている。
それに、よく見ていればわかる。
ジャイルズはセレーネという親鳥についていく雛のようだ、と。
そして必ず体のどこかを触れ合っている。
セレーネとジャイルズというラモン公爵夫妻は相思相愛なのだ、と。
同級生だったという2人。
前公爵オズワルドがジャイルズをセレーネの夫に選んだのではなく、セレーネがジャイルズを選び子供を授かったのだろう、と。
オズワルドが選んだのであれば、もっと社交性のある男を選んだに違いないからだ。
だが。
幸せそうな夫婦と健康で聡明な子供たち。
ジェラルドという跡継ぎが産まれた後の前公爵オズワルドの嬉しそうだった姿。
あぁ、なんて無責任でどうでもいい噂だったのか、と。
セレーネが公爵家を継ぐことは、正当な権利であり、正統な権利でもあった。
噂話を暴くと痛い目に合う。
社交界では、しばらく愚かな噂話が減ったという。
<終わり>
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