正当な権利ですので。

しゃーりん

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無口で無表情だが真面目で頭の良いジャイルズのことを、オズワルドはすぐに気に入ったようだった。

どちらが孫なのかと思うくらい2人の時間は長く、セレーネは自分が学ぶべきではないのかと思ったけれど、セレーネに任されたのは屋敷の管理、内政の方だった。

つまりは女主人の権限の方で、不満は……まぁ、ない。

公爵家に関わる仕事をジャイルズがしてくれるのであれば、セレーネの負担は少なくなる。

それに、セレーネはすぐに妊娠したから。もちろん、ジャイルズの子供を。



オズワルドとは寝室が別で、部屋も隣ではないところを使っている。

セレーネとジャイルズは階こそは違うが中に隠し階段がある部屋で繋がっており行き来できるため、毎日一緒に寝ている。オズワルドが生きているうちに子供ができることが望ましいため、避妊などしなかったのですぐにできた。

公爵邸の造りがどうなっているのか、同じような隠し階段や秘密の通路などがあちこちにあるのではないかと少しドキドキワクワクしたのは内緒だ。


「よくやった。私のひ孫か。楽しみだ。」


オズワルドはすっかり単なる好々爺だった。確かに本来であれば余生を楽しむ年齢である。
息子が生きている時は公爵家の仕事は任せて自分は国の仕事をしていた。
公爵の位をなかなか息子に譲らなかったのも国の仕事で頼りにされていたからであり、公爵であるという地位も必要だったからだろう。
 
息子も孫もひ孫も一気に亡くした。
事故がなければ、ひ孫の成長を楽しみにする老人だったはず。

そう思えば、オズワルドは気の毒な境遇でもある。
セレーネは祖母マローネの恨みを晴らす気で毎日罵倒するつもりだったが、すっかりその気はなくなっていた。


「ひ孫ですけどね、対外的にはオズワルド様の子供ですよ。間違えないでくださいね?」

「ああ。喜んで好色ジジイの役を務めるさ。」


オズワルドは私がクソジジイと口走っても、それすら孫とのじゃれ合いで嬉しいと言う。


意外とこんな暮らしも悪くないな、と思っていた。





オズワルドと夫婦として社交界に出ることもないまま、セレーネは出産した。

男の子でジェラルドと名付けられた。

結婚1年足らずでラモン公爵家の跡継ぎが誕生したことに社交界は驚いていたらしい。
密かな陰口も、オズワルドは笑顔で受け止めたという。


そしてジェラルドが1歳になろうかという頃、セレーネは2人目を妊娠した。

オズワルドはとても喜んだが、その頃から体調が悪くなり始めた。

結局、2人目が産まれるのを見ることなく、結婚2年半でオズワルドは亡くなった。

セレーネが最初で最後に告げた『お祖父様』という言葉に嬉しそうに微笑んで………




オズワルドの葬儀では、初めて姿を見せた1歳半のジェラルドといかにも妊婦のセレーネは注目の的だった。

そしてジェラルドを抱いていたジャイルズのことも。
 

セレーネもジャイルズも、社交界にデビューはしていたが顔はほとんど知られていない。

葬儀に出席している者の中には、ジャイルズがオズワルドの腹心の側近だったに違いなく、オズワルドに認められた再婚相手なのではないかと考える者も少なくなかった。
 
 



 
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