正当な権利ですので。

しゃーりん

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セレーネの恋人、ジャイルズ・イーストンは侯爵家の三男。

三男というのは次男とも違い跡継ぎのスペアの役割すらない。
比較的早いうちから、将来は好きなことをしていいと言われていたらしい。
見放されているわけではなく、家族の仲も良い。どこかに婿入りしたいと望めば探してくれただろう。
自己主張をすることが少ない息子に、自分の望むことを探させたかったということのようだ。


セレーネがジャイルズと知り合ったのは、15歳のとき。
貴族として微妙な位置づけにいるセレーネと、成績は良いが誰ともつるまないジャイルズは、図書室でセレーネが問題に悩んでいるところをジャイルズに聞いたことから仲良くなった。


学園を卒業すれば平民になるセレーネと、人と多く接する騎士にも文官にも向かないジャイルズ。
ジャイルズは祖父母や両親からの小遣いを貯めて投資したりして何倍にも増やし、セレーネと二人なら裕福な平民としてメイドも雇えるほどの財産は十分にあった。
なので卒業後は身内の商会で裏方の仕事でもしながら二人で穏やかに暮らすつもりだったのだ。

セレーネは自分の子供を産むつもりはなかった。

オズワルドがセレーネとの結婚を望むまでは。

セレーネはオズワルドとの関係をジャイルズに話した。祖父と孫だと。
公爵家の跡継ぎが欲しいのであれば、セレーネが産んだ子供は父親が誰であれオズワルドの血縁ということになる。
なのでセレーネはジャイルズとの間にできる子供を公爵家の跡継ぎにするために、敢えてオズワルドと結婚するという道を選ぶとジャイルズに告げた。

逃げる意味もない。祖母マローネの代わりにオズワルドを罵倒して公爵家を奪ってやるというような気分だった。

ジャイルズは、『セレーネと一緒ならどこでもいい』といった感じで、セレーネが公爵の孫だということが嘘でも本当でもどうでもいいようだった。
 




セレーネはパルフェ伯爵家の次女。
だが、パルフェ伯爵令嬢と名乗ることができるのは18歳までだった。

パルフェ伯爵家は、セレーネの異母姉ジャクリーンの母親の家。父親は婿入りしたのだ。
ジャクリーンの母が亡くなり、父はセレーネの母を強引に後妻にした。そして産まれたのがセレーネ。
つまり、セレーネはパルフェ伯爵家の血筋ではないのだ。
両親共に貴族ではあるが、セレーネ自身が貴族として微妙な位置づけなのはそのためである。

ジャクリーンはセレーネが異母妹だということは伯爵家の祖父母から聞かされていたのでわかっていたが、義母は優しいし異母妹のことも可愛いと思ってくれていたので、仲は良かった。 

仲が悪くなったのはジャクリーンが15歳、セレーネが12歳のときだった。

ジャクリーンの婚約者になる令息が、ジャクリーンではなくセレーネと婚約したいと言ったからだ。

セレーネはパルフェ伯爵家の血筋ではないため跡継ぎにはなれないと説明された令息は納得してジャクリーンの婚約者になったが、ジャクリーンにはしこりが残った。

そのため、セレーネを貴族令嬢としてパルフェ伯爵家で面倒見るのは18歳までとなったのだ。
セレーネを貴族令嬢として嫁がせるには持参金がいる。それをパルフェ家は出さないということだ。

セレーネが13歳の時に母が亡くなってからは、父親からも見放されていたこともあり、学園を卒業したら平民になるとセレーネは宣言していた。母の従兄となる伯父たちを頼る気はなかった。 


だが結局、卒業前にオズワルドがセレーネを妻として買ったことで、平民になることなく公爵夫人となった。

 


 




 
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