正当な権利ですので。

しゃーりん

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ラモン公爵家にやってきたセレーネは、オズワルドと挨拶をしただけで雑談や質問も何もしないまま言った。


「婚姻届は準備してくださっているのですよね?」

「あ、ああ。それとお前を伯爵家から公爵家の籍に移したいと考えている。」


セレーネは驚いた。まさかオズワルドがこの時点で言うとは思っていなかったのだ。


「よろしいのですか?それでは子供ができないまま公爵様がお亡くなりになっても私は公爵家の人間のままになりますが?」

「……ああ。その場合はお前に公爵家をやろう。」
 

セレーネは訝しがった。まだそんなに会話はしていないが、オズワルドの様子が変わったからだ。

しかし、彼の気が変わる前に必要書類にサインを終えた。
使用人がそれを持って退出したので届け出するのだろう。それが済めばセレーネはオズワルドの妻になり、公爵家の者となる。


「公爵様、オズワルド様、旦那様、それともクソジジイ?何とお呼びしましょうか?」

「……ははっ。何でもいいさ。」


セレーネは戸惑った。もうすぐ届け出は受理されて自分は公爵家の籍に入ることは間違いない。
書類に不備はないだろう。父である伯爵のサインも既にあったのだから。 

若い娘を金で買ったジジイだと思っていた。
跡継ぎを必要としているため、若い娘になることは当然だとわかっているのだが。
それでも43歳差というのは大きく、買われた感も大きい。

だが何故か、挨拶を交わした時の様子と、今の様子は全然違う。

何というか、若い妻を得る高揚感から、諦めを悟った悲壮感に変わったような雰囲気で。

セレーネが気に入らないのであれば、結婚を取り消しても良かったし、公爵家の籍に入れる必要もないというのに。


「あぁ、セレーネには好いた男はいたのか?」

「……はい。」

「そうか。その男の名前は?」


セレーネは警戒した。名前を知ってどうするというのか。


「少し調べるだけだ。セレーネに相応しいかどうかをな。お前を大事にしてくれそうな男だとわかれば、ここに連れてきても構わない。」

「……どういうことでしょうか。」


愛人にして構わないと言っているように聞こえる。


「……私はまた間違いを起こした。お前は私の愛した女性ではないとわかっていたのに。彼女によく似ているのに中身は全然違う。それに気づいた。なのに全身で私を拒否するところは同じで。」


セレーネを見ながら、違う誰かを見ているのだ。


「オズワルド様の愛した女性とはどなたですか?」

「……セレーネの大叔母にあたるマローネという女性だ。彼女は少しの間ここで働いていた。」


マローネは随分前に亡くなっているのでセレーネは何も知らないと思ったのだろう。
オズワルドはマローネとのことを綺麗に語った。


「前の妻とは政略結婚で好きになれなかった。妻が妊娠中、侍女をしているマローネに会った。一目惚れだった。マローネの姿が見たくて、声が聞きたくて休憩にお茶を運んでもらっていた。彼女も私を好いてくれていると思った。だが、愛人にはなれないと言われ、彼女は私との別れを選び仕事を辞めて実家に帰ったんだ。」


「それ、嘘ですよね?」
 

セレーネは淡々とオズワルドに指摘した。



 


 
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