正当な権利ですので。

しゃーりん

文字の大きさ
上 下
3 / 15

3.

しおりを挟む
 
 
3年前、オズワルド・ラモン公爵は、息子と孫、ひ孫を一気に失うという悲劇に見舞われた。

息子に爵位を譲る直前の出来事だった。 
 

まさかこんなことになるとは思っておらず養子をとることも考えたが、やはり自分の直系に継いでもらいたいというのが男の性というものだった。

ならばどうするか。

子供を産ませるのであれば、貴族令嬢を娶るしかない。
自分の歳のことを考えると何年も時間をかけるわけにもいかないとわかっており、20歳前後の若い令嬢なら孕む可能性が高いだろうと思った。
20代の未亡人や出産経験のある女性も考えたが、誰かの手がついたことのある女に公爵家の子供を産ませることに抵抗を感じたし、托卵の恐れもあるため純潔の令嬢から選ぶことにした。
 
自分の孫のような年齢の貴族令嬢を妻にすることになる。

だが、こっちは老人だ。長くて10年もすれば死ぬのだ。
子供さえ産んでくれれば、何度も閨の相手をする必要なく贅沢な暮らしができるのだ。

金につられて結婚を了承する娘はいるだろう。

そう思っていた。


伯爵家以上で未婚、婚約者のいない令嬢というのは意外と少ない。
だが、20歳を過ぎた令嬢は訳アリ令嬢がほとんどだった。

年齢を下げて調べると……いた。セレーネ・パルフェ伯爵令嬢。17歳だった。
若いな、とさすがに悩んだ。

だが、一目見てから考えようとオズワルドは思ったのだ。

そしてセレーネを見た時、雷に打たれたかのように動けなくなった。


セレーネはオズワルドがかつて唯一愛した女性にそっくりだったのだ。

 


40年近く前のことだ。

妻とは政略結婚したばかりだった。気の強い妻のことは好きにはなれなかった。

だが、思いのほか妻が早く妊娠したことで2人での社交も減り、閨も共にしなくて済んで気が楽になっていた頃だった。

うちの侍女として働いている、子爵令嬢マローネに一目惚れしたのは。

マローネはとても可愛くオズワルドの好みだったのだ。

侍女長に頼み、マローネに一日2回執務室までお茶を運ばせるように頼んだ。
初めは緊張していた彼女は、次第に笑顔を見せてくれるようになった。

癒しの時間だった。

やがて妻が息子を出産した。
マローネからも祝いの言葉を言われたことが少し辛く感じた。

そしてオズワルドは思い切って言ったのだ。

『私の愛人にならないか?』と。

マローネは無理だと断ってきた。私も、忘れてくれと言った。


だが、それから少ししてマローネが仕事を辞めて実家に帰ると挨拶に来た。

彼女は『縁談の話が来た』と言った。

オズワルドはカッとなった。ソファに押し倒し、押さえつけて純潔を奪った。
行為後、マローネの秘部に思ったよりも出血が見られたことに動転して薬を取りに部屋を出た。

戻るとマローネの姿はなかった。
 
使用人棟に行きマローネを呼んでもらったが、彼女は既に荷物を持って出て行ってしまったという。

実家に帰ったのはわかっている。しかし、逃げた彼女を追いかけることはできなかった。 

 
オズワルドは仕事に逃げ、マローネが誰と結婚したかも知らなかった。知りたくなかった。

彼女が独身のまま亡くなったことを知ったのは、何年も経ってからのことだ。
 
 


 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

それは私の仕事ではありません

mios
恋愛
手伝ってほしい?嫌ですけど。自分の仕事ぐらい自分でしてください。

愛なんてどこにもないと知っている

紫楼
恋愛
 私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。  相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。  白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。  結局は追い出されて、家に帰された。  両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。  一年もしないうちに再婚を命じられた。  彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。  私は何も期待できないことを知っている。  彼は私を愛さない。 主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。  作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。  誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。 他サイトにも載せています。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

お久しぶりですね、元婚約者様。わたしを捨てて幸せになれましたか?

柚木ゆず
恋愛
 こんなことがあるなんて、予想外でした。  わたしが伯爵令嬢ミント・ロヴィックという名前と立場を失う原因となった、8年前の婚約破棄。当時わたしを裏切った人と、偶然出会いました。  元婚約者のレオナルド様。貴方様は『お前がいると不幸になる』と言い出し、理不尽な形でわたしとの関係を絶ちましたよね?  あのあと。貴方様はわたしを捨てて、幸せになれましたか?

酷い扱いを受けていたと気付いたので黙って家を出たら、家族が大変なことになったみたいです

柚木ゆず
恋愛
 ――わたしは、家族に尽くすために生まれてきた存在――。  子爵家の次女ベネディクトは幼い頃から家族にそう思い込まされていて、父と母と姉の幸せのために身を削る日々を送っていました。  ですがひょんなことからベネディクトは『思い込まれている』と気付き、こんな場所に居てはいけないとコッソリお屋敷を去りました。  それによって、ベネディクトは幸せな人生を歩み始めることになり――反対に3人は、不幸に満ちた人生を歩み始めることとなるのでした。

聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした

今川幸乃
恋愛
カレン・ブライスとクライン・ガスターはどちらも公爵家の生まれで政略結婚のために婚約したが、お互い愛し合っていた……はずだった。 二人は貴族が通う学園の同級生で、クラスメイトたちにもその仲の良さは知られていた。 しかし、昨年クラインの妹、レイラが貴族が学園に入学してから状況が変わった。 元々人のいいところがあるクラインは、甘えがちな妹にばかり構う。 そのたびにカレンは聞き分けよく我慢せざるをえなかった。 が、ある日クラインがレイラのためにデートをすっぽかしてからカレンは決心する。 このまま聞き分けのいい婚約者をしていたところで状況は悪くなるだけだ、と。 ※ざまぁというよりは改心系です。 ※4/5【レイラ視点】【リーアム視点】の間に、入れ忘れていた【女友達視点】の話を追加しました。申し訳ありません。

婚約者に嫌われているようなので離れてみたら、なぜか抗議されました

花々
恋愛
メリアム侯爵家の令嬢クラリッサは、婚約者である公爵家のライアンから蔑まれている。 クラリッサは「お前の目は醜い」というライアンの言葉を鵜呑みにし、いつも前髪で顔を隠しながら過ごしていた。 そんなある日、クラリッサは王家主催のパーティーに参加する。 いつも通りクラリッサをほったらかしてほかの参加者と談笑しているライアンから離れて廊下に出たところ、見知らぬ青年がうずくまっているのを見つける。クラリッサが心配して介抱すると、青年からいたく感謝される。 数日後、クラリッサの元になぜか王家からの使者がやってきて……。 ✴︎感想誠にありがとうございます❗️ ✴︎(承認不要の方)ご指摘ありがとうございます。第一王子のミスでした💦 ✴︎ヒロインの実家は侯爵家です。誤字失礼しました😵

処理中です...