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しおりを挟む3年前、オズワルド・ラモン公爵は、息子と孫、ひ孫を一気に失うという悲劇に見舞われた。
息子に爵位を譲る直前の出来事だった。
まさかこんなことになるとは思っておらず養子をとることも考えたが、やはり自分の直系に継いでもらいたいというのが男の性というものだった。
ならばどうするか。
子供を産ませるのであれば、貴族令嬢を娶るしかない。
自分の歳のことを考えると何年も時間をかけるわけにもいかないとわかっており、20歳前後の若い令嬢なら孕む可能性が高いだろうと思った。
20代の未亡人や出産経験のある女性も考えたが、誰かの手がついたことのある女に公爵家の子供を産ませることに抵抗を感じたし、托卵の恐れもあるため純潔の令嬢から選ぶことにした。
自分の孫のような年齢の貴族令嬢を妻にすることになる。
だが、こっちは老人だ。長くて10年もすれば死ぬのだ。
子供さえ産んでくれれば、何度も閨の相手をする必要なく贅沢な暮らしができるのだ。
金につられて結婚を了承する娘はいるだろう。
そう思っていた。
伯爵家以上で未婚、婚約者のいない令嬢というのは意外と少ない。
だが、20歳を過ぎた令嬢は訳アリ令嬢がほとんどだった。
年齢を下げて調べると……いた。セレーネ・パルフェ伯爵令嬢。17歳だった。
若いな、とさすがに悩んだ。
だが、一目見てから考えようとオズワルドは思ったのだ。
そしてセレーネを見た時、雷に打たれたかのように動けなくなった。
セレーネはオズワルドがかつて唯一愛した女性にそっくりだったのだ。
40年近く前のことだ。
妻とは政略結婚したばかりだった。気の強い妻のことは好きにはなれなかった。
だが、思いのほか妻が早く妊娠したことで2人での社交も減り、閨も共にしなくて済んで気が楽になっていた頃だった。
うちの侍女として働いている、子爵令嬢マローネに一目惚れしたのは。
マローネはとても可愛くオズワルドの好みだったのだ。
侍女長に頼み、マローネに一日2回執務室までお茶を運ばせるように頼んだ。
初めは緊張していた彼女は、次第に笑顔を見せてくれるようになった。
癒しの時間だった。
やがて妻が息子を出産した。
マローネからも祝いの言葉を言われたことが少し辛く感じた。
そしてオズワルドは思い切って言ったのだ。
『私の愛人にならないか?』と。
マローネは無理だと断ってきた。私も、忘れてくれと言った。
だが、それから少ししてマローネが仕事を辞めて実家に帰ると挨拶に来た。
彼女は『縁談の話が来た』と言った。
オズワルドはカッとなった。ソファに押し倒し、押さえつけて純潔を奪った。
行為後、マローネの秘部に思ったよりも出血が見られたことに動転して薬を取りに部屋を出た。
戻るとマローネの姿はなかった。
使用人棟に行きマローネを呼んでもらったが、彼女は既に荷物を持って出て行ってしまったという。
実家に帰ったのはわかっている。しかし、逃げた彼女を追いかけることはできなかった。
オズワルドは仕事に逃げ、マローネが誰と結婚したかも知らなかった。知りたくなかった。
彼女が独身のまま亡くなったことを知ったのは、何年も経ってからのことだ。
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